記者会見
五番勝負開幕前に、永瀬王座、藤井竜王・名人のそれぞれに記者会見が行われました。
【永瀬王座の質疑応答】
――注目のシリーズが始まります。いまの率直な心境は。
「徐々に緊張感が高まって、明日を迎えるなという感じがしています」
――挑戦者の藤井竜王・名人にとっては八冠制覇が懸かるシリーズ。それを阻止したい意識はありますか。
「大記録を目指されているということですが、自分には関係がないことだと思っていますので、自分は自分で結果を出して、名誉王座に近づけるよう頑張りたいと思っています」
――永瀬王座にとって、藤井竜王・名人の存在は。
「藤井さんには普段から将棋を教えていただき、こちらが引き上げていただくばかりかなと思っています」
――名誉王座の懸かるシリーズ。永瀬王座にとって永世称号はどのような重みがありますか。
「永世称号は偉大な記録だと思っています。それに挑戦するのは初めてなんですけど、それに近づけるよう、頑張らなければいけないと思います」
――陣屋対局での王座戦は、これまで4戦負けなし。相性のよさは感じますか。
「王座戦は今日で5回目、トータルでは7回目で、(タイトル戦の開催地のなかで)いちばん多く伺っている場所。成績が奮っているのであれば、相性のよい場所で指させていただいているんじゃないかと思っています」
――改めて、五番勝負はどのようなシリーズにしたいですか。
「実績と勢いと実力を兼ね備えている藤井七冠で、とても厳しいとは思うんですけど、一局一局、一生懸命、将棋を指して、皆様によい将棋をお見せできればと思っています」
――昨年の棋聖戦五番勝負から1年ぶりのタイトル戦になりました。
「その間に藤井さんはタイトル防衛と奪取を積み重ねていて、自分のほうは藤井さんに影響を受けながら頑張っている状態なのかなと思います」
――A級順位戦で藤井竜王・名人に勝ったが、そのときの手応えは今回に生きると思われますか。
「今年の2月に指して、それから時間がたっていますので、また違う感覚で指すことになると思います。結果は幸いしましたが、とても難しい将棋でした。それがどの程度、働いてくるか分かりませんが、その将棋自体はうまくやれた部分があったかなと思います」
――藤井竜王・名人とは数年前から練習将棋を指してきた相手でもある。大舞台で対戦することについては。
「藤井さんと指し始めたのは自分が六段か七段で、藤井さんは四段だったと思います。その頃はこうして注目いただける舞台に自分が立てるとは、想像できなかったです。自分が言うのもおこがましいかもしれませんが、藤井さんは四段の頃にすでに大棋士の片鱗をうかがうことができたので、それから頭角を現してきたことは自然な流れだったのかなと思います。考え方、価値観、すべてにおいて素晴らしいと感じました」
――藤井竜王・名人の考え方などは、具体的にどういった内容でしたか。
「谷川浩司十七世名人の言葉や考え方に近いなと自分は感じました。藤井さんからいただいた言葉の一つ一つは自分にとって財産ですので、これは誰にも教えず墓場まで持って行きたいなと思っています」
――練習将棋をされて、互いに手の内を知っていると思うが、それについては。
「相手の考え方を理解しやすい部分はありますが、手の内が分かっていても、指しにくさはないと藤井さんも言うんじゃないかなと思います。それを加味したうえでの戦いですが、互いにイーブンなので、プラスマイナスはないと思っています」
――挑戦者決定トーナメントの藤井竜王・名人の戦いぶりをどのように見ていましたか。
「勝率が高くても、どこかで敗れる可能性があるのがトーナメントですが、相手にチャンスがあった局面もあったのかなと客観的には思いました。ただ、洗練された序盤や切れ味鋭い終盤が持ち味だと思いますので、それが急所で光ったのだと思います。これまで(挑戦者決定トーナメントの)1回戦、2回戦で敗退されることが多かったと思いますが、上位者になって、勝負強さを発揮されていたのかなと思います」
【藤井竜王・名人の質疑応答】
――あらためて王座に挑戦することの心境と、王座戦の印象を教えてください。
「王座戦では初参加のときにベスト4まで進むことができたのですけど。それ以降はなかなかチャンスを作れていなかったので。今期、挑戦できたことは凄く嬉しく思っています。この番勝負に向けて楽しみな気持ちが大きいです」
――八冠制覇が懸かるシリーズになります。インタビューなどでは、あまり意識されないというように発言されていますが、挑戦を決めてから、王位の防衛もされたことなどで徐々に気持ちの変化などはありましたか。
「自分としては、このような機会を迎えられるとは、あまり思っていなかったですけど。八冠に挑戦できるのは凄く貴重な機会かなと思っています。凄く注目していただける舞台にもなるので。それに相応しい将棋が指せるように頑張りたいなと思っています」
――対戦相手の永瀬王座にとっては名誉王座の懸かるシリーズになります。互いに記録の懸かるシリーズで、永瀬王座とこういう大舞台で指せることについては、どう思われていますか。
「永瀬王座とのタイトル戦は昨年の棋聖戦に続いての2回目になりますけど。その時は私にとって防衛戦という形だったので。今回は自分が挑戦して永瀬王座とタイトル戦で対局できるというのは凄く嬉しいです。また、普段から研究会をやっていただいていて、棋風なども知っているところが多いので、全力でぶつかっていけたらなと思っています」
――永瀬王座との対戦では序盤の駆け引きなども注目されると思います。先日も自分から工夫していきたいとおっしゃられていましたが、その辺りの準備などはいかがでしょうか。
「永瀬王座は序盤から凄く洗練されていますし、研究会で対局を重ねて、お互いの棋風や考えを知っているところもあるので。そこからさらに工夫したところ、成長したところを出せるかどうかというのがポイントかなと思っています。第1局は先後がわからないという形にはなるのですけど、先手、後手どちらになった場合も想定して考えて来ました」
――本シリーズ、どういうシリーズにしたいか抱負を聞かせてください。
「凄く注目していただけるシリーズになったなと感じているので、シリーズを通して自分のベストを尽くして、よい将棋にできるように戦っていきたいなと思っています」
――陣屋に来られたのは初めてかと思います。将棋のタイトル戦では有名なお宿だと思うのですが。その印象と、陣屋事件ということがありましたけど、何かご存知なことがあれば教えてください。
「これまでも数々の対局が行われて来たところで、自分もいつかは伺ってみたいなと思っていたので、今回それが実現したことを嬉しく思っています。お庭が凄く広くて、対局室からの景色も綺麗ですし。凄くリラックスできる素晴らしいところだなと感じています。陣屋事件はもちろん有名ですし、私ももちろん聞いたことがあります。升田先生が木村先生を香落ちに指し込んだというところが一つの発端だったかと思うのですけど。升田先生のほうにいろいろな葛藤があったのかなということは感じます」
――今回、八冠が懸かるシリーズです。これまでのタイトル戦と心境で何か違いはありますか。
「そうですね、いま(記者会見場に)いつもより多くの方に来ていただいているので、それでやっぱり緊張感はあるなと思っています。対局に臨むうえでは、これまでと違った何か特別なことができるというわけではないので。昨年の棋聖戦であったり、これまでの対局を踏まえて、そこから少しでも成長したところを見せられればなと思っています」
――昨年の棋聖戦が唯一、これまで永瀬王座とのタイトル戦だったかと思うのですが。そちらで戦って見ての印象をお伺いできますか。
「まずは序盤戦術という点でうまく立ち回られたなという印象があります。研究会で指していた将棋から、さらに工夫した、違った形を番勝負で採用して来られたという印象があるので、その辺りとてもうまいなと感じました。また、中盤以降でも時間配分を含めて本当にうまく指されて、凄く大変なシリーズだったなというふうに感じています」
――今回、その教訓を踏まえての特別な対策みたいなものはありますか。
「まずは序盤の作戦という点と、あとは時間配分でしょうか。王座戦はチェスクロックの5時間という持ち時間で。5時間というのは結構長いんですけど、一方でチェスクロックですので、残り時間が少なくなってくるとあっという間だなということも感じているので。その辺りも踏まえて、どう戦っていくか考えていきたいと思います」
――今回、歴史的なシリーズになると思います。相手が練習将棋もされていて気心の知れた永瀬王座ということで、今回のシリーズでどういう棋譜を残していきたいか。何かあれば教えてください。
「今回の王座戦は自分にとっても大きなものだと思いますし、本当に多くの注目をいただいているので。将棋の内容として、それに見合った、多くの方の記憶に残るような対局にしたいなと思っています」
――先ほど少しお名前が出ていましたけれども、升田幸三実力制四代名人は、タイトルが3つだったときに全冠制覇を成し遂げた名棋士で。全冠制覇は、その後、大山康晴十五世名人、羽生善治九段が、それぞれ五冠、七冠で達成をされているんですけれども。藤井名人は今回史上初の八冠制覇に挑むということで。そういった過去の名棋士に並ぶ、それ以上と言ってもいいように思いますが、そういったところに挑むわけですが。そういった緊張感、そのような名棋士の系譜に連なることがあることについてどう思うかということについて教えてください。
「記録に関しては、あまり過去の方を比較してということは、自分自身は意識はしていないのですけど。大山先生や升田先生の将棋は私も奨励会の頃などに並べて、凄く勉強になったというか。現代の目で見ても凄く先進的な将棋を指されていたのかなと思っています」
――今回は永瀬王座とのタイトル戦ということで、タイトル戦自体2回目ですけれども。藤井竜王・名人が四段時代から研究会で将棋を指してきた間柄の永瀬王座、当時は永瀬王座もまだタイトル獲得前だったと思うんですけれども。そういった方と切磋琢磨して強くなって、こういった大舞台で対戦するということの重みとか実感ということを、時間の流れも踏まえながら教えてください。
「永瀬王座には私が四段の頃に声をかけていただいて、それ以来、研究会をやっていただいていて。本当に私にとって勉強になることばかりで。凄くそれで自分の棋力が引き上げられたのかなとも感じています。また、その後に永瀬さんが王座を取られたり、凄く活躍されて。そのことが刺激にもなったのかなと思っています。今回、こういった本当に大きな舞台で永瀬王座と対戦できるというのは、凄く自分にとっても楽しみです。しっかり指して、面白い内容の将棋にしていきたいなと思います」
以上で前日の模様の更新を終わります(前夜祭等は開催されておりません)。
対局は明日9時開始です。どうぞお楽しみに。
(八雲)