2023年2月
感想戦(2)
感想戦(1)
対局者が大盤解説会に登壇
終局直後
(防衛まであと1勝とした藤井聡太王将)
【藤井聡太王将インタビュー】
--本局は横歩取りの激しい攻め合いの将棋になりました。まず1日目、横歩取りに進んだことについてはどういう感想をお持ちですか。
「始まる前はどういう展開になるかわからないと思っていましたが、横歩取りも可能性はあると思っていました」
--昼食休憩を挟んでの▲4五桂(41手目)という大長考がありました。また封じ手前は▲5三桂成(47手目)と単騎で突っ込む激しい手順を選ばれましたが、1日目についてはどういう方針、形勢判断で指されていましたか。
「△2六歩(40手目)に▲2三歩成△同金▲2八歩と受けるような手もあって、(△2六歩ではなく)△2七歩と打たれたらそう(▲2三歩成△同金▲2九歩と)進めるつもりでした。△2六歩に▲2三歩成は少し損すると思って、▲4五桂も掘り下げて考えましたが、7筋が壁になっていて堅くないので成算はなかったです。▲4五桂に対してもいろいろあると思ったのですが、本譜(44手目△2五飛)だと桂取りの受け方がなくなったので▲5三桂成と進めてみました」
--封じ手の前の▲5三桂成(47手目)では、▲6五桂もあったと思うのですが。
「▲6五桂もあると思ったのですが、本譜は本譜で難しいと思っていました」
--2日目は藤井王将の猛攻が続きました。▲8五飛(61手目)と回ったあと、羽生九段の桂馬がどんどん跳ねて(62手目△7三桂~66手目△7七桂不成)味がいいようにも見える中で攻めていったのですが、あのあたりはどのような方針で指されていましたか。
「▲2五飛(57手目)と打ったところは駒損を回復して悪くないと思っていたのですが、本譜の△2四歩(60手目)に▲8五飛から攻めていったのは結果的によくなかったかと思います。(△2四歩に)▲3五飛や、△6五桂(64手目)に一旦受けるとか、もう少し細かく指さないといけなかったです。本譜は▲6三竜(65手目)に期待したのですが、飛車を渡す攻めになるので、進んでみると思ったほどよくなかったなあと思いました」
--昼食休憩明け、羽生九段の△4一金(76手目)に対して1時間15分の長考で▲5三銀と攻めました。
「△4一金のときに手が広いと思いました。単に▲3五銀と出るつもりでしたが△3四歩と受けられたときにいい攻め方がわからなかったです。本譜は△5六歩(78手目)▲同歩△4五桂が厳しく、難しくしてしまったと思います」
--控室でも形勢が混沌としてきたという声があがりました。▲3五銀(81手目)に対して△3三桂と玉の退路を確保される手が出てAIの評価値も傾いたのですが、感触はいかがでしたか。
「▲5三銀(77手目)が空振りになってしまっている形で、考えていても苦しい変化が多いと思っていました」
--藤井王将の中で形勢を最も悲観された場面はどこでしょうか。
「△4五桂(80手目)を許して自玉がかなり危ない形になったので、よくなかったと思っていました」
--最終盤、手ごたえとしては苦しかったのでしょうか。
「そうですね。▲5四桂(87手目)に△5七銀から竜を取られるような変化(△5七銀▲同銀△同桂成▲同玉△8四角の王手竜取り)も少し苦しいと思っていたので、全体的に△4五桂(80手目)を許してしまって、自玉のまとめ方がなくなってしまったので失敗していると思いました。本譜の△5一銀打(88手目)ももちろんあると思っていて、▲4二角成△同銀▲5三銀(91手目)の局面がどうかと考えていました」
--勝ちになったと思われたのはどのあたりでしょうか。
「▲4五銀(95手目)と桂馬を取った手が詰めろになっているので、そのあたりは好転したかなと思っていました」
--これで3勝2敗となり、王将位の初防衛まであと1勝としました。次戦に向けてひとことお願いします。
「あまりスコアは意識せずに次局も頑張りたいと思います」
(羽生善治九段)
【羽生善治九段インタビュー】
--一局を振り返ってどんな将棋だったでしょうか。
「序盤は何局か経験のある形だったのですが、早い段階で前例のない形になって、そこからは手探りでやっていたという感じです。あまり自信のない局面が続いていたというところです」
--後手番ということで、藤井王将の強手を受ける時間が長かったと思いますが、しのぎの場面はどういう感じでしたか。
「ちょっと対応を誤ると一気に終わる局面が続いていたので、まとめづらい将棋とずっと思っていました」
--2日目の終盤、△4一金(76手目)と受けられたところはいかがでしたか。
「ほかの受けはジリ貧になってしまうので、あれは仕方がないと思っていました」
--△3三桂(82手目)が控室でも評判がよく、形勢逆転という声もあったのですが、感触はいかがでしたか。
「あの局面は桂馬を跳ぶ一手と思いました。でも▲4六銀(83手目)のあとに何を指せばいいかわからなかったですね。本譜では負けにしていると思うので、△6九飛(84手目)じゃなくて何か選ぶべきだったかもしれません。
--控室ではAIを参考にして見ていたのですが、その△6九飛は悪い手ではないということでした。
「へえ、そうなんですか。へえ……。じゃあ△5一銀打(88手目)で△5七銀ですか。ちゃんと調べないとわからないですが、それを選ぶべきでしたか。正確には読み切れなかったですね。△6九飛では結構考えたのですが、何をやってもちょっと足りないと思ってしまったので、もうちょっと本譜よりはマシな順があったかもしれません」
--2勝3敗となりましたが、次局に向けてひとことお願いします。
「しっかり調整していい将棋が指せるように頑張ります」
(終局直後。主催者のインタビューを受けている)
藤井王将が3勝目
桂馬を渡さない攻め
図は△5一銀打の局面。先手は桂馬を渡すと△6六桂▲同歩に△6七角の寄せがあるので、▲4二桂成△同銀▲5三銀とは指せません。
そこで藤井王将は▲4二角成と、桂馬を渡さずに角を使って攻めていきました。
△同銀に▲5三銀(上図)と、藤井王将は絡んでいきます。再び攻守が入れ替わった状況です。
羽生九段、残り30分を切る
図の▲5四桂を見た羽生九段が考えています。残り時間は30分を切りました。藤井王将は残り39分です。先手は桂馬を渡すと△6六桂▲同歩に△6七角と打つ筋があるので、踏み込んだ攻めと言えます。
福崎九段は「本局で羽生九段が勝ったら、△3三桂が『羽生マジック』ということになると思います」と話しています。