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(文)
本局を振り返って、高崎五段は次のようにコメントした。
「本局は藤井九段の放った△6四角(34手目)の勝負手が通ったかに見えましたが、羽生王座の▲9五歩△同歩▲7七角(45~47手目)が気が付かない妙手順でした。その後、藤井九段に一失あり形勢が傾きましたが、終盤は最後まで根性を見せてくれました。見ごたえのある将棋だったと思います」(高崎一生五段)
(本日はご観戦いただき、ありがとうございました)
インタビューを終えた両対局者は、ファンの待つ解説会場へ移動。石田九段、森内九段、安食女流初段とともに一局を振り返った。一致したのは、△3三同金(62手目)がよくなかった、ということ。「終わってからわかってもしょうがないんですけどね」と、藤井九段が得意の自嘲節を披露すると、会場は笑いに包まれた。
(大盤解説の森内九段(左)、羽生王座(中央)、藤井九段(右))
(石田九段(左)の指示で、安食女流初段(中央)と森内九段(右)が大盤を操作する)
(羽生王座(左)、藤井九段(右))
【羽生善治王座】 「力戦形の将棋になり、序盤から手探りの状態だった。一手一手苦心して指した。(本局を振り返って)寄せがちょっとおかしかった。▲3三角成(61手目)のところはよくわからなかった。(王座戦19連覇について尋ねられ)今はまだ終わったばかりで実感はないです。ただ、ひとつの形なのでうれしい」
【藤井猛九段】 「(本局を振り返って)仕掛けていったが、行かないと模様が悪いので仕掛けざるを得なかった。難しいかなと思っていたが、気がついたら悪くなっていた。馬を取った(△3三同金……62手目)のはよくなかった。(シリーズを振り返って)有利な局面がほとんどなかったのが残念です」
(終局時の盤面)
22時すぎ。藤井九段投了の確認を待って、報道陣が対局室へなだれ込む。両対局者とも疲労の色をにじませている。すぐに主催者によるインタビューが行われ、羽生王座、藤井九段とも小さな声で搾り出すように答えていた。
(羽生王座。王座戦19連覇を達成した)
(藤井九段の表情からは疲労と虚脱が見てとれる)
(行方八段は104手目△5六角に▲5二飛成で詰みと解説していた) (行方八段は▲5八歩に驚きの声を上げた。「最後は形を作らせてもらえなかったですね。きついですね」と▲5八歩の感想を述べていた。熊倉女流初段はパソコンを見て、進行を調べる) 行方八段の総括「王座戦19連覇、19連勝はとてつもない記録。本局は藤井さんの奇策が功を奏さなかった。夕食休憩の局面は難しいところもあったと思いますが、(57手目)▲5九香から▲5三香成という一連のつくりが華麗で、印象に残りました」(銀杏)
図の▲5二同竜を見て、藤井九段が投了を告げた。終局時刻は22時01分。消費時間は▲羽生4時間53分、△藤井4時間59分。この対局に勝った羽生王座は今シリーズを3連勝で制し、王座を防衛。19連覇を達成した。また王座戦での連勝も19に伸ばした。まさに「無敵」と呼ぶにふさわしい偉業だ。藤井九段は策を凝らして挑んだが、10年前の雪辱を果たすことはできなかった。
図は21時40分頃の局面。羽生王座は竜・角・豊富な持ち駒と、攻撃要員は十分。藤井九段はギリギリのところで踏みとどまっているが、いつ崩れてもおかしくない形。だが後手は牙を折られ傷だらけになりながらも、△9六歩のひと噛みを身を潜めて狙っている。簡単にあきらめてほしくないと、ファンの誰もが思っている。そして簡単にはあきらめるわけにはいかないと、本人は当然思っていることだろう。