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2021年9月 1日 (水)

高崎七段の分析(永瀬王座編)

永瀬王座は第67期に王座戦五番勝負に初登場し、当時の斎藤慎太郎王座を3勝0敗で破って奪取しました。当時、永瀬王座は初タイトルの叡王を保持しており、自身初の二冠を達成しています。

Dsc_0782(第67期王座戦五番勝負第1局の感想戦。挑戦者・永瀬叡王の眼光は鋭かった)

 第68期の初防衛戦は挑戦者に久保利明九段を迎えます。久保九段と同じく振り飛車党の高崎七段にシリーズを振り返ってもらいました。リンク先の棋譜ページを見ながらご覧ください(以下は高崎七段のインタビューです)。

【両者の持ち味について】
永瀬王座の持ち味は負けない将棋で、長手数になっても、千日手になっても苦にしません。久保九段は華麗で、芸術的なさばきが印象に残ります。

【第1局▲永瀬-△久保 永瀬勝ち】

http://live.shogi.or.jp/ouza/kifu/68/ouza202009030101.html 

55手目の▲3八飛から▲3七角が気づきにくい工夫で、ここから先手の模様がよくなりました。▲5九角と引いた瞬間は△6五歩と仕掛けられやすいので神経を使うんですが、▲3八飛のパスを入れてから飛車を2筋に戻すことで、後手が向かい飛車にさせたのがポイントですね。四間飛車なら△6五歩から△4六歩のように攻めやすいんですが、向かい飛車だとそうもいきません。この辺りは一見は千日手模様ですが、永瀬王座は千日手にする気はなかったでしょう。序盤の細かな工夫でペースを握るのに成功しました。 

【第2局▲久保-△永瀬 久保勝ち】

http://live.shogi.or.jp/ouza/kifu/68/ouza202009090101.html

序盤で4八玉型のまま▲3六歩から▲4六歩を優先したのは、▲3七桂から▲2五桂を見せて穴熊を牽制する構想でしょう。中盤は久保将棋の真骨頂だったと思います。61手目の▲7七桂から▲4五歩、そして▲5二飛まできれいなさばきでしたね。相手の駒をそっぽにいかせて、自分の駒は急所に向かっていきました。

【第3局▲永瀬-△久保 永瀬勝ち】

http://live.shogi.or.jp/ouza/kifu/68/ouza202009240101.html

49手目の▲6五歩から先手がペースを握っています。そこからねじり合いが続いたものの、最後は永瀬叡王が穴熊の深さを生かして押し切りました。

【第4局▲久保-△永瀬 久保勝ち】

http://live.shogi.or.jp/ouza/kifu/68/ouza202010060101.html

終盤は永瀬王座がよかったと思いますが、久保九段の粘りが逆転を呼びました。162手目の△1八歩に対し▲3七銀打と踏ん張った手など、一連の指し回しが相手を焦らせたように思います。

【第5局▲久保-△永瀬 永瀬勝ち】

http://live.shogi.or.jp/ouza/kifu/68/ouza202010140101.html

最終局は永瀬王座の快勝でした。△3一金(33手目)、△3三銀(40手目)から△2四銀など、棋風通りに丁寧な指し回しから優位を拡大しています。

シリーズ全体を振り返ると、両者が持ち味を発揮したシリーズだったでしょう。振り飛車党の視点ですと、いろんな振り飛車が見られましたね。特に流行の8一玉型が出てきた初の番勝負なので、このシリーズをきっかけにプロ棋界でも採用数が増加したと思います。8一玉型は私も指していますが、振り飛車の攻め筋が増えて世界が広がりました。

(紋蛇)

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