2025年3月

2025年3月10日 (月)

対局から一夜明けた本日、深谷市役所で藤井王将の一夜明け会見が行われました。

Img_7402 始めに小島進・深谷市長から花束が贈呈された。

Img_7408 花束を持って記念撮影。

【一夜明け会見】
―― 一夜明けての感想を聞かせてください。
「永瀬九段と二日制で対局をするというのは、この王将戦が初めてで。その点は前から楽しみでもあったのですけれど。そういった長い持ち時間の中で5局を指して。どの将棋も難しい中盤戦と終盤戦という局面が多かったので。充実感もありありましたし、非常に勉強になったシリーズだったと思っています」

―― 第5局で2手目に△3四歩を指されました。プロ9年目で初めてということで、そのことの手応えと、いま思われることがあれば教えてください。
「2手目に△3四歩と突いてみようかなというのは、本局に向けての準備の中で考えていたことではあったのですけれど。ただ、いままで公式戦では指したことがないので。経験としては、かなり不足しているところもありますし。やってみないとわからないところが多いと思っていました。その中で、こうして8時間という持ち時間で、△3四歩からの将棋を指すことができて。それで発見であったり、手応えであったり、そういったものを得ることができたんじゃないかと思っています」

―― 昨日は2手目△3四歩を指されましたが、これから先、後手の場合、例えば5筋の歩を突くとか、飛車を振るとかいうことは考えられますでしょうか。
「現時点で考えているということではないんですが、もちろん、可能性としては、そういった余地はあるかなとは思っています。ただ、特に振り飛車というのは、相居飛車とは感覚的にも違ったところが求められるようになるので。もし、そういうことがあるとすれば、そのために相当な準備が必要になるかなと考えています」

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―― 盤外のことになりますが、深谷だと、赤城乳業の工場があったりとか、秩父鉄道でSLが走ったりしています。埼玉だと鉄道博物館もあるんですけど。行きたいところとか、やってみたいこととかはありますか。
「埼玉県は今回初めて伺ったのですけれど。名産のネギであったり、煮ぼうとうなどもいただくことができて。こちらの名物とかは、いろいろと楽しむことができたかなと思っています。埼玉県ということでいうと、やはり鉄道博物館が大宮にありますので。そちらは是非ゆっくり周ってみたいなと思っています」

―― 深谷の人たちは、藤井王将がお見えになることを楽しみにしていまして。深谷での印象と、深谷市民の方に一言お願いします。
「深谷対局にあたって、地元の方に準備と歓迎をしていただいて。とても気持ちよく対局に臨むことができました。食事もネギであったり、いちごの『あまりん』など、美味しいものが多かったと感じています。前夜祭や大盤解説会にも多くの方に来ていただいて。対局への注目であったり、期待というのが力になったと感じています」

―― 王将のタイトル4連覇について、タイトルを重ねていくことについて、どのようにお考えですか。
「タイトル数であったり、そういった記録というものについては、今の時点でそれほど意識することでは、そこはないのかなと考えています。やはり、より実力を高めていくということと、それによって長期にわたって活躍できるようにすることが重要なのかなと。記録というものも、それによってついて来る、あるいは伸ばしていくことにもつながるのかなと思っています」

2025年3月 9日 (日)

感想戦終了後に記者会見が行われました。

Img_7368 始めにフォトセッションが行われた。

【藤井王将の記者会見】

―― 本局は、2手目に初めて△3四歩を選ばれました。この対局でこの手を選ばれた理由はなんだったのでしょうか。そして、局後の永瀬九段の言葉で、△3四歩に対して準備不足だったとありました。作戦としては成功したとお考えでしょうか。
「このシリーズが始まったときから、後手番のときは2手目に△3四歩と突くことも含めての作戦を考えようと思っていました。それを本局で試した見たということですが。初めて指すことになるので、わからない部分も多かったんですけれど。結果として序盤、それほど悪くならずに乗り切ることができたのかなと」

―― 永瀬九段との初めての2日制のタイトル戦でした。1日制との違いは。
「1日制と2日制では、ペースがかなり違ってきます。急所の局面で求められる読みの量も違うので。永瀬九段と、今回の2日制の対局を通して非常に勉強になるところが多かったかなと感じています」

―― 今回の防衛でタイトル獲得数が28期となりました。これは尊敬されている谷川浩司十七世名人を超えることになりましたけれども。これについてはいかがでしょうか。
「いま、そういった実感はないんですけれど。今回、タイトル獲得数が28期ということで、その点で谷川十七世名人の記録を超えることができたことは、光栄なことと思います。

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―― 今日の対局が今年度の対局としては最後になります。今年度を振り返っていかがでしたか。
「全体を振り返ると、成績という面では、それほど振るわなかったですけど。対局を通して、いろいろと得たものは多かったかなと感じています。それをしっかりと生かして、強くなれるように、これからも取り組んでいくことが求められるのかなと思っています」

―― 2手目△3四歩を指す決断に至るまでには何がありましたか。
「最近、後手番で少し苦戦することが多いということがあって、変化することが求められる部分もあるのかなと。また、以前は実戦に於いても、最善を突き詰めていったらどうなるのかという考え方の意識が強かったんですけれど。考えてもわからないことが多いですし。その中で、実戦でいろいろな変化をしていく中で、構想を考えていくということも大きな意味があるのかなと判断するようになったので。それもあって、いろいろな形を試して見れたらいいなと思っています」

―― 永瀬九段との研究会で2手目△3四歩を指したことはありましたか。
「練習対局で、何回か指したことがあったので。なので、△3四歩を突くことで意表をつける、ということではないかなと思っていましたので。その後で、うまくバランスを取っていけるかどうかが大切だと思っていました」

―― 昨年来、常々後手番が課題であるということを、おっしゃっていました。去年の後半から、後手番の成績に関して、数字的には上がって来ているように思います。何か手応えを感じていますか。
「後手番の戦い方という点では、いまでも試行錯誤しているところではありますけれど。少しずついろんな経験を積めていきているかなと思うところもあるので。それを生かしてさらにブラッシュアップしていければと思っています」

Img_7199 終局直後、両者にインタビューが行われた。

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【藤井王将の談話】
―― 後手番で△3四歩から始められました。この手はどういう想いで指されましたか。
「本局は△3四歩~△4四歩で角道を止めて戦ってみようかなというのは事前に考えていたんですけど。ただ、手の組み合わせがいろいろ考えられるので。その後はどういう展開に進むかわからないかなと思っていました」

―― 先手の▲6八金寄で封じ手になりました。一日目の進行としてはいかがだったでしょうか。
「これまで指したことのない将棋だったので、形勢判断がわからないところだったのですけれど。封じ手の辺りは、いったん局面が落ち着くような形になって。おそらくいい勝負なのかなと思っていました」

―― 今日に入って、△2一飛(58手目)と回りました。あの辺りの午前中の戦いはどうでしたか。
「3五歩の形を生かすような組み立てができればと思ったのですけど。△3四銀(56手目)のように玉から少し駒が離れていって、ちょっと薄い形なので。怖いところは多いかなと思っていました」

―― 形勢の好転を自覚されたのはどのあたりでしたか。
「自玉が薄いのでよくわからなかったのですけれども。△3五銀(88手目)と銀を立って角を捕まえた辺りでは、少し指せるのかなと思ったのですけど。ただ、そのあとも、やっぱり自玉が薄い形で、難しいところは多いかなと思っていました」

―― 新しい指し方で始まった一局を振り返っていかがでしょうか。
「本格的な戦いが始まるまでが、かなり長くて。駒組みのところでも、いろいろ選択肢の広い局面が多かったので。その辺りが非常に難しい将棋だったのかなと感じています」

―― 4勝1敗となって、4連覇ということになりました。王将戦の歴史の中で5人目の4連覇ということになるのですが。この4連覇という数字についてはいかがでしょうか。
「今期のシリーズを振り返ると、第1局から難しい局面の多い将棋が続いたかなと感じているので。指していて充実感というものもありましたし。その中で結果を残せたことも嬉しく思っています」

―― 永瀬九段との初めての2日制の対局でしたが、そのことも大きかったですか。
「そうですね。2日制の長い持ち時間で指して。いろいろ勉強になるところがあったかなと感じております」

―― また4月からお二人で名人戦ということになりますが、抱負などをうかがえればと。
「名人戦の開幕までは、おそらく公式戦の対局は少なくなると思うので。しっかり、いい状態で名人戦に臨めるように取り組んでいきたいと思います」

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【永瀬九段の談話】
―― △3四歩(2手目)と指されましたが。これについては、どうでしたか。
「開幕戦辺りは意識していたんですけど。本局だと意識が抜けてしまっていたので。準備不足だったなと思います」

―― 戦いを終えられて、こう指せばよかったとか、いま振り返られる反省点などがありましたら教えてください。
「ちょっと序盤が損しているのか、相場なのかが、ちょっと判断がつかなかったので。その点は反省点だなと思います。難しい局面が長く続いていたような気はするんですけど、急に悪くなってしまったような気がするので。▲1四歩(81手目)の辺りがまずかったのかもしれないですけど。手前からよくわからなかったので、もう少しうまくバランスを取りたかったなと思いました」

―― 七番勝負は1勝4敗で、今回は終わることになりますけれども。1局でも長くというお話を戦前もされていたかと思いますが。その部分も含めて、この七番勝負をどういうふうに振り返られますか。
「3連敗してからは、1局でも多くということをいっていたんですけど。私は2日制の経験値が浅すぎるので。それで5局指すことができましたので、よい経験ができたなと思います」

―― 藤井王将との初めての2日制という部分での収穫とか、課題とか、そういう部分について発見されたものというのはいかがだったでしょうか。
「やってみないとわからない発見というものも多くありますし。藤井王将と対局できないと、なかなか発見できなかった反省点も多く見つけることができましたので。自分にとってよい成長の糧になっていると思います」

―― 4月から名人戦七番勝負がありますが。
「引き続き、2日制の感覚を引き継いで、ということにはできますので。今回の王将戦は、結果は残念ではありましたが、また名人戦で対局できますので、そちらも集中したいなと思っています」

―― △3四歩に対して準備不足だったというお話しがありました。午前中から時間を使われていましたが、準備不足の影響があったのでしょうか。
「やりたい形がちょっとなかったので。そこは準備不足だったなと思いました」

2025030894図は17時25分頃の局面。
後手の攻めが急所を捉えて、はっきりリードを広げました。藤井王将の防衛が近づいています。

Img_7173 藤井王将がぐいぐいとリードを広げている。

渋沢栄一記念館から徒歩4分ほどの鹿島神社を過ぎて1分ほど歩くと、尾高惇忠の生家があります。惇忠は江戸時代に水戸学に精通し、明治になると富岡製糸場(世界遺産)の初代場長を務めるなど、幅広く活躍した人物です。

Img_20250309141129074 現存する尾高惇忠の生家は、江戸時代後期の建築と推定されています。焼杉の塀や煉瓦造りの倉庫など、モダンな印象を受ける建物です。

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Img_20250309141506959 煉瓦造りの倉庫。

Img_20250309141403188 かまども煉瓦造り。

Img_20250309141948193 広い庭もある。

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2025030881時刻は16時20分を回りました。
図の▲1四歩は、△1四同歩なら端で1歩を入手できるようになるので、そこで▲7五歩△同歩▲7四歩や、▲5五歩△同歩▲2二歩、あるいは▲2三歩と垂らすような手を狙っていく意味があります。先手は現状で2歩を持っていますが、激しく攻めるにはもう1歩欲しいところ、というのが検討陣の見解です。

しかし、この▲1四歩は「入らないだろう」というのが検討陣の見解です。無視して△3六歩と取り込み、▲1三歩成なら△3五銀が絶好で後手よしと見られています。
「藤井王将は、こういう手は逃さないですからね。△3六歩と取り込んだら、じりじりした展開から一転して激しくなると思います」と、現地控室に来訪した勝又清和七段。
これを見た立会人の藤井猛九段は「△3六歩と取り込んだら、和服に着替えにいくか」と、気持ちを引き締めていました。

Img_7174 藤井王将が差をつけるチャンスを迎えていると見られている。

【追記】
16時30分過ぎ、藤井王将は11分の少考で図から△3六歩と取り込みました。いよいよ激しい展開に入りそうです。

渋沢栄一記念館から徒歩4分ほどの鹿島神社を1日目に散策しました。
鹿島神社には、渋沢栄一らによって建てられた、尾高惇忠(おだか あつただ、または、おだか じゅんちゅうとも)の業績を伝える「藍香尾高翁頌徳碑(深谷市有形文化財)」が建っています。尾高惇忠は渋沢栄一の年上のいとこで、学問の師に当たる人物でもあります。

Img_6917 鹿島神社の参道。

Img_6919 鹿島神社の案内。

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Img_6940_2 藍香尾高翁頌徳碑(深谷市有形文化財)。

Img_6930 神楽殿。

Img_6943 境内は広々としている。

Img_6926紅梅は盛りを過ぎた頃。

Img_6934 入れ替わりで、これは河津桜だろうか。咲き始めていた。

2025030874時刻は15時半を回りました。
△4五歩までの消費時間は▲永瀬6時間25分、△藤井6時間24分(持ち時間は各8時間)
2日目に入って、永瀬九段は駒を引いて耐えながら陣形を立て直して反撃の機会をうかがっています。先手番として消極的な展開といえますが、藤井王将の用意の作戦に対抗するには、先手番でも辛抱するしかないと見ているのかもしれません。

Img_7150 永瀬九段は駒を引いて勝負を急がない。