16時45分から大日本報徳社の講堂で、フォトセッションと記者会見が開かれました。
(掛川市のマスコットキャラクター「茶のみやきんじろう」と掛川茶PRアンバサダーの二人と記念撮影)
――昨年の11月に挑戦者が羽生九段に決まってから、どのような準備をされてきましたか。
「羽生九段が挑戦者に決まってから王将戦を意識してきたんですが。羽生九段は戦型も多彩で様々な戦型を指されるので。何か具体的に対策を深めるというよりは、公式戦の対局を指しながら、王将戦に向けて状態をなんとかよくしていければと思ってやっていました」
――明日から始まる七番勝負に向けての意気込みをお願いします。
「注目していただけるシリーズになると思うので、期待に応えられるような、よい内容のシリーズにできればと思っています」
――七番勝負対局直前のいまの心境、対戦相手の羽生九段をどのように捉えていますか。
「将棋界のスーパースターの方なので、やはり今回、王将戦七番勝負という舞台で対戦できることは、とても楽しみにしています。特に最近の羽生九段の将棋を見ていると、新しい感覚と、羽生九段ご自身の将棋観をうまくミックスされて指されているのかなという印象を持っています」
――掛川では10年以上連続で王将戦が行われています。将棋のまち・掛川を標榜しておりますけれども。今日、こども将棋などもご覧になって、どんな感想をお持ちになったか。そして掛川という対局場所についてのイメージや思いがあったらお聞かせください。
「こちらの掛川市では本当に長年、王将戦を開催していただいてありがたく思います。今日、こども王将戦のほうを見学させていただいたのですが、参加されている方も多くて、みなさん楽しそうに指されていたのが印象的でした。私としては対局で掛川の将棋をなんとか盛り上げていけるように頑張りたいと思っています」
――藤井王将と羽生九段はスーパースター同士かと思うのですが、そのお二人が今回、あいまみえるということは、将棋の歴史においても大きなことかと思います。その時代、世代、歴史、そのような重さ、意味合い、そのようなものを対局の前日にどのように感じておられますか。
「自分としては、そういった意味付けというのは後からなされるものかなと思っているので。まずは、明日からの対局をよいものにできるように全力を尽くしたいという思いです」
――羽生九段の挑戦を受けるに当たって、どんなところに注意したいと思われるか聞かせてください。
「羽生九段とは、これまでに公式戦で何局か対局がありますけれど、二日制での対局は初めてになりますので。そこに関してはやってみないとわからないのかなと思っています。これまでの対局でも、こちらが気付いていない柔軟な一手を指されることが多かったので、こちらもなんとか読みを深めて対応できるように頑張りたいと思います」
――対局の2日目には成人の日ということで『二十歳の集い』などもあります。藤井王将も二十歳ということで、成人の日を迎えての思いを教えてください。
「20代ということで、これからの時間というのは非常に大事なものになってくると思うので、それをなんとか有効に生かせるようにやっていきたいという想いです」
――コンピューター将棋について2つ質問させてください。藤井王将はAMDの『Ryzen Threadripper PRO』を搭載したハイエンドパソコンを提供されましたけれど、これはいま使われているのか。NPSはどれぐらい違うのか。使い心地はどうなのか。それから、将棋AIの強さ以外で進歩して欲しい機能、仕組みなどはありますでしょうか。
「AMD様から『Ryzen Threadripper PRO』を搭載したパソコンを提供していただきまして、いま自宅で使っています。それまではZEN2世代のThreadripperを使っていたのですが、今回いただいたものはZEN3と、より新しいものになるので。性能も高いですし非常に快適に使わせていただいています。2点目の質問ですが、いまのAIというのはとても強くなっていて、使っていてとても勉強になることが多いのですけど。読み筋と評価値を見てもなかなか示している意図が難しいところがあるので。なにかそういった評価値とか内部的なところで何か、難しいとは思うのですが、示してくれるような形になれば、使う側としてはありがたいのかなと思います」
――将棋のまち・掛川にいらっしゃって、将棋のまちだなというのは何か感じたところ、藤井王将が思う将棋の普及とか、そういうところ何か、ご自身ができることなど、何かあれば教えてください。
「今回の対局の開催に当たって、市内の各地で王将戦ののぼりであったり、そういったものを目にして嬉しく思いました。また、今日のこども大会でも、本当に将棋が盛んなところなんだなということを感じました。私自身も、こどもたちへの普及だったりとか、そういったことに貢献できればと思います」
――11月21日に挑戦が決まって、それから藤井王将の将棋の研究とか、どのような対策、準備をされてきたか教えてください。
「藤井さんの対局は、このタイトル戦の挑戦が決まる以前から、毎局のように注目して見ています。中継もやっていますし、データーベースでも見ることができるので。それを見て、どういう形でいくのがいいのかということを今日まで考えてきたというところです」
――明日から七番勝負が始まります。2年振りのタイトル戦にもなりますが、今回の七番勝負への意気込みを聞かせてください。
「せっかくこういった檜舞台に立つ機会に恵まれましたので。その舞台にふさわしいような中身の濃い将棋が指せたらいいなと考えています」
――タイトル戦では初対決となる藤井王将の、現時点での羽生さんの捉え方というのは。このような棋士だ、ここを警戒したい、というのがあれば教えてください。
「藤井さんはずっと安定して結果を残されていて。特に、ここ最近さらにその強さを増しているという印象を持っています。ただ、棋譜で見ているのと、実際に対局してみるのとでは、だいぶ感じ方ですとか、受け取る印象というのは変わるところもあると思うので。それは明日以降に、自分自身が実際に対局してみて体感していくものなのかなと思っています」
――藤井戦の準備をされてこられたということで、強さが増しているんじゃないかというお話もありましたが。明日からの2日間、いままでのタイトル戦と、今回のタイトル戦、戦い方でいうと、藤井さんと戦うということで、これまでと違ったりとか、藤井さんに特化したものを用意されているのか。それとも、これまでと変わらないのか。何か違うことがあれば教えてください。
「明日が第1局で、振り駒で先後が決まるということもあるので。それによって、だいぶ展開が変わるんじゃないかなと思っています。もちろん、いろいろと想定するんですけど、実際の対局というのは結構、自分の思い通りにならない、予想通りにならないところもあると思うので。意外なことが起こってから、しっかりと対応していきたいなと思っています。特に藤井さんとの対戦に特化したという話ではないのですが、2日制の、8時間という非常に長丁場の対局でもあるので。やはり、ミスをしないというか。正確に指していくということも非常に大切かなと考えています」
――羽生九段と藤井王将は32歳差の対決ということになります。将棋の歴史においても非常に大きな意味を持つタイトル戦になると思います。世代を超えた対戦が実現したということを、対局を明日に控えたいま、その意味合いや重さのようなものをどのように感じていますか。
「将棋の世界は、比較的年齢差があっても対戦するということは、ままあるということではあると思うのですけど。そうはいっても、これぐらい離れてしまうと、特にタイトル戦という舞台では、実現するのは難しいところはあるのかなとは思っていました。今回、そういったものを超えて、なんとか実現できたのは非常に嬉しく思っています。一方で、ただ対戦があったということだけでは、あまり大きな意味は持たないと思っていますので。それにともなった内容、中身のあるものを残していくということが大切なのではないかなと思っています」
――昨年度、非常に苦しんだ時期もありましたが、藤井王将とタイトル戦を戦いたいという気持ちがモチベーションになったようなところはあるのでしょうか。
「例えば、王将リーグが始まるときには、もちろん挑戦は目指すのですけど、やっぱり手強い人ばかりなので。まずは残留できるように、というところから始まる、というところはありました。ある程度、星が伸びてからは、確かに藤井さんとのタイトル戦が現実に実現したらいいな、ということは考えていましたので、それがいい方向につながったのではないかなというふうにも思っています」
――大山康晴十五世名人が年をとってからも強かったのは、相手が何を考えているか見抜く目がすごかったからではないか、ということを以前に谷川浩司十七世名人からお聞きしたのですが。羽生九段は50歳を超えられて、若い頃よりも、対戦相手が何を考えているかを見抜くような、そういう能力が出てきたなというようなことを感じることはありますか。
「たくさん対局をしてきた中の経験値によって、こういう手がくるんじゃないかとか、そういう予想はするのですが。なかなか実戦の相手の手を予測するというのは、かなり難しい作業なので。いろいろな可能性に対して対応できるようにしておくということが、私が実際にやっているというところです。確かに、大山先生、私も晩年に10局ぐらい対局しているんですけど。やはり非常に、相手の手を予測するのがうまいというか、そういう力も非常に長けていましたし。パッと見て、その局面の急所というか、ツボを押さえるというところも、はたから見ていてすごいなと感じたという記憶もあります。私自身はあまり感じたことはなくて、もちろんそれができればいいですけど、まだまだ修行が足りないというところです」
――今回、揮毫で「仁」という字をお書きになられました。その字を選ばれた意味を教えてください。
「これは、この王将戦を記念して作る記念扇子として書いた言葉で。最初に実は藤井さんが『深』という言葉を書かれていて。私が次何を書くかというところで。いろいろ考えたのですが、語呂とかそういうのがいいかなと思って『仁』という言葉を選びました。もちろん、将棋は盤を挟めば年齢は関係なく、学べるところは学ぶということでもありますので。それは若い人からでも、いろんなことを吸収して習得していけたらいいなというふうにも考えています」
――羽生九段が最初に名人を獲られたときの相手が50代の米長邦雄永世棋聖だったかと思います。今回は逆に50代の挑戦者として20代のタイトルホルダーに挑みます。あらためて、感慨とか意義などを感じるところがあれば教えてください。
「米長先生とは二回りちょっと離れていたと思うのですが。本当に幅広い年代の人と対局ができるというのが将棋の素晴らしいところかなと思っていまして。スポーツの世界ですと、なかなか20年とか30年というふうな歳の差で、同じ土俵で顔を合わせるというのは難しいと思うので。これは将棋の世界ならではのことなのかなと思います。もちろんその点に関しては感慨深いところもありますけれども、対局が始まってしまえば、そういうことは横に置いて、しっかり集中してやっていけたらいいなと思っています」
――掛川という土地で、王将戦が10年以上連続して行われています。その掛川に対するイメージですとか、思いがありましたら教えてください。
「10年以上にわたって王将戦の開幕局を毎回開催していただいて、とてもありがたく思っております。掛川の地元のみなさんが力を合わせて、毎回歓迎をしてくださって、対局に集中できる環境を作ってくださっていることに、深い敬意を持ち、感謝をしています。これからも是非、そういう形で続けて行っていただけたら嬉しく思います」
(書き起こし=八雲)