渭水苑の女将を務める蜂須賀恭子さんにお話をうかがいました。
私が女将になったのは4年前で、それまでに一度辞めているんですね。会社が変わって一年ほどして帰ってきて、そのときは前の女将と一緒にやっていました。
これだけ毎年、王位戦をしていただいているのですが、いまだに将棋は山崩しぐらいしか分かりません。プロの世界があるのは、羽生(善治九段)さんとかをテレビで見て知ってはいましたが、将棋自体は本当におじいちゃんがやるのを見ていたぐらいでした。菅井(竜也八段)さんが羽生さんから王位を取ったときが、私が戻って1年目か2年目のときだったと思います。その次の年には菅井王位と豊島さんが対局して。
藤井さんは王位を取ったときが4連勝だったので渭水苑には来られなくて、昨年の初防衛のときに初めてお会いしました。こちらとしてはやることはいつもと変わらないのですが、2年前の4連勝のときは第4局と第5局の間が一週間ほどしかなくて、それでも用意だけはしておかないといけない。ただ、そのときは「勝負メシ」がすごく話題になっていて、よその対局場のメニューを見ても豪華だし、カツカレーとか言われたらどうしようとか料理長に聞いたりして。徳島新聞の担当の方からは「徳島のものを出してもらえたらいい」ということだったので、今では変わらず「この中から選んでください」という形でご提供させてもらっています。それまでは菅井さんとか豊島さんとかが一番若くて、10代の人が来たことがなかったので、どうすればいいのかという心配はありました。
豊島さんと初めてお会いしたときは、若くて少年っぽさも残っている、おとなしい感じでしたが、昨年見たときはしっかりした顔立ちで、その変わりように驚きました。言葉もハキハキとされていて「こんなに成長されて」とお母さんのような感じで。藤井さんも大人びた顔になって昨年とは違うなあと。おふたりとも対局に入ったら顔つきが変わりますが、私たちがご案内させていただくときはあどけない感じです。
対局場の雰囲気は毎年変わらないですね。それは若い人でも年齢が上の人でも真剣勝負なのは変わらないです。羽生さんと木村(一基九段)さんが対局をしたときは緊張感の中にゆとりがあって、豊島さんや藤井さんは同じ緊張感でも、ゆとりより活気というか熱気がある。これは年齢の差なのかなと感じます。以前は廊下にクーラーがなく、窓も昔ながらの木枠で隙間があったので、空調はいまのほうが効いているはずですが、対局室に入るとモワッとしていて熱気を感じます。
今後も藤井さん、豊島さんには渭水苑に来ていただきたいですし、将棋のことは分からないのですが、人の成長というか、若い子がだんだん年齢を重ねて、冠を取っていく中でどのように変わっていくかとか。渭水苑の対局はちょうど1年開きますし、今は五冠を持っている藤井さんも、今後タイトルを取ったり取られたりして、そうなったらまた違いも見られるのかなと。それこそ母親みたいな感じで見ています(笑)。