17時過ぎ、藤井九段は△4二銀(図)と引いた。「新構想ですね」と即座に深浦九段が反応する。この銀は飛車方面で攻めに使うと思われていただけに、意外な進行だ。▲7四歩(取れば▲5五角が王手飛車)と美濃囲いの急所を突けるので、大胆な手とも言える。そしてこの銀は、もともと1手で行けるところ(3一→4二)を3手かけている(3一→2二→3三→4二)ので2手損している。序盤の角交換(1手損)、飛車の途中下車(1手損)と合わせて4手損。「4手損戦法ですか」と深浦九段は驚きを隠せない様子だ。藤井九段の構想が行き着く先はいったい?
控室ではまず▲7八金△3三桂▲6八金右△5四歩▲6六歩△2五歩▲同歩△同飛▲同飛△同桂▲2一飛△2八飛(参考図)が並べられ、杉本七段は「これは手損が気にならない展開」という。飛車交換が実現すれば、手損したことが「陣形の低さ」というメリットに転化されている。こう進むのなら後手としては満足だ。
そこで△4二銀には▲7四歩が検討されている。以下△5四歩▲7三歩成△同銀▲6六歩△5三銀▲6五歩△7二金▲7八金△6二金左▲6七金右(参考図)が進行の一例。深浦九段と杉本七段は、「後手は穴熊に組み替えるのではないか」と予想している。また、「▲7四歩と突かせるのも狙いなのでは」とも。7筋の歩を入手するという観点だけで見れば、先手が▲7六歩~▲7五歩~▲7四歩~▲7三歩成と4手を費やしたのに対し、後手は自分からは何もしていない。ゼロ手で歩を手に入れた計算になる。右の参考図では驚いたことに、手の損得がなくなっている。
(文)
2012年7月10日 (火)