2011年8月
門司港レトロ展望室
11時頃の控室
森下九段、「定跡」について語る
10時10分頃、控室では定跡の話題で盛り上がっている。定跡の定義とは、という問いに森下九段が「実戦の積み重ねと、あと信用が大事だと思いますね」と答えている。
森下 むかし米長研では初手から研究していたんですよ。▲7六歩は良い手か悪い手か、じゃあ△8四歩はどうだ、と。当時は時間が無限にありましたからね。
中座 藤井さん(猛九段)は今でもそうらしいですよ。『将棋世界』に書いてあった気がします。
森下 私が若い頃は、「定跡は弱い奴が覚えるんだ」と言われましてね、定跡通と呼ばれた棋士が「これは○○戦だ」と言うと笑われていたんですよ。信じられないですよね。
中座 今じゃ知らないと逆に笑われますからね。
森下 いまは定跡が当たり前になって、でもそれだけじゃダメなんですよね。これからは定跡と力の時代ですね。
(将棋も変わりましたよね、「駒得至上主義」の時代とはスピード感が全然違いますよね、と関係者)
森下 そうですね。「駒得するからいいだろう」という曖昧な価値観から、一手一手がより具体的に理論付けされるようになって。一手の重みが昔とはまるで違ってきましたよね。
(こちらは話題が変わった後の様子。「自転車に乗ってるとカラスが襲ってきましてですね……」。控室が笑いに包まれる)
(文)
2日目午前のおやつ
10時10分頃の局面
10時10分頃、左図の局面で羽生二冠が時間を使っています。ここまでの消費時間は▲広瀬4時間20分、△羽生4時間6分。
【棋譜コメントより抜粋】
ここから△8六竜▲3三歩成△同銀▲4五桂△5四桂▲同角△同歩▲3三桂成△同金▲4五桂△3二金(右図)に、(1)▲3三銀と(2)▲3三歩が検討されている。
(1)▲3三銀は△同金▲同桂成△5二玉(左図)で後手玉が意外と広い。「▲7二金や▲7二角では足りないでしょうねえ」と森下九段。
(2)▲3三歩は△4二金寄▲3四桂△8九歩成▲4二桂成△同金▲3二金△5二玉▲4二金△6一玉(右図)が一例。これも8筋に竜がよく利いていて、後手玉は捕まえにくい形だ。「ほおー。定跡は大したもんですね。なかなか破れないですね」(森下九段) 「ただ、こっち(後手)も相当怖いですけどね」(中座七段)
(八雲)