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控室には勝又清和七段が取材で訪れ、日本経済新聞の解説を担当する森内九段と継ぎ盤で検討しています。森内九段に本局の展開について聞きました。「後手は△4六銀(34手目)と歩を取りましたが、△5五銀~△6四銀と戻ったので手が遅れています。先手は手得を生かして玉を固めました」。実戦は△4六銀以下、▲6八玉△3二玉▲7九玉△5五銀▲8八玉△6四銀▲7二歩と進みました。
森内九段は「▲7二歩(41手目)は積極的ですね。▲9六歩など、いろいろあるところでした」と永瀬九段の指し手に注目します。ここから△7二同飛▲8三角△8二飛▲4七角成と進みました。
先手は馬の存在と玉の堅さ、後手は歩得が主張といえます。森内九段は「馬と玉の堅さで先手を持ちたい人が多いと思います」と見解を語ったうえで、「歩切れは大きいですね。1歩入手したいんですけど、歩がぶつかるところがあまりないので、3筋で入手できれば指し方に幅が出るんですが」と先手の懸念材料について話します。
序盤は比較的早い進行でしたが、今後の展望についてはどうでしょうか。森内九段は「ここまでは作戦通りということでしょう。前例が多くない形なので、ここからポイントが見えにくくなってきます。しばらくはお互いに一手一手が難しい展開が続くと思います」と語りました。
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対局場の「元湯陣屋」は神奈川県の鶴巻温泉にある老舗旅館です。1918年(大正7年)、三井財閥の御寮(別荘)として「平塚園」が建てられ、現在の陣屋の起源になりました。囲碁・将棋のタイトル戦の舞台としても知られ、王座戦ではタイトル戦に昇格した1983年より前から対局を行ってきた縁があります。館内には対局写真や揮毫色紙など、貴重な資料が展示されています。
1952年(昭和27年)には昭和将棋史に残る「陣屋事件」が起きました。前年の12月から第1期王将戦七番勝負が木村義雄名人と升田幸三八段(肩書は当時)で争われ、第5局を終えて升田八段が4勝1敗とします。升田八段の王将位獲得が決まるとともに、当時の王将戦の規定に従って第6局が升田八段の香落ちで行われることが決まりました。ところが、対局場の陣屋を訪れた升田八段は迎えがなかったことに憤慨して対局を拒否。背景には、名人の権威を思う升田八段の葛藤があったとされます。この事件以来、陣屋では来客があると、入り口の太鼓を鳴らして迎えるようになりました。
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