2015年7月 9日 (木)

本局のハイライト

本局の中継の棋譜・コメントを担当した潤です。王位戦第1局は羽生王位の勝利となりました。感想戦では95手目の▲6三角が敗着とされ、代えて▲8五歩△同歩を入れてから▲6三角なら先手優勢とされました。ここでは感想戦で両者が頭を悩ませた変化について、その時の両者の様子を交えながら紹介いたします。

Photo_2図は94手目、羽生王位が△8三同銀と成桂を取った局面。ここから本譜は▲6三角としましたが、感想戦ではその手が敗着とされ、代えて▲8五歩△同歩▲6三角とする順で先手優勢が結論づけられました。以下△8四香のときに、当初は先手よしの変化が出ませんでしたが、本局の立会人である福崎九段が▲7五銀打を指摘。するとこの手があまりにも難解な変化ながら、ひと通り調べられいずれも先手よしと結論づけられました。ところが、羽生王位が、「ちょっとすいません、いいでしょうか」と呟いたひと言をきっかけに、感想戦は思わぬ方向へと進んでいきます。

▲7五銀打に対し羽生王位は△9四香▲8五銀△9八歩成▲8四銀直△8八と(下図)を指摘。一直線の攻め合いですが、この順があまりにも難解だったようで、両者は険しい顔つきで下を向き、しばらくの間固まってしまいました。やがて無言で脳内盤を動かしあったあと、広瀬八段が、「うーん、こっち(先手)足りないですか、駄目ですか」と切り出しました。

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当初の両者の読みは△8八と以下▲8三銀成△7一玉▲8一角成△6二玉▲6三銀△5三玉で後手優勢というもの。そこで▲3四桂と縛っても、△7二桂▲同成銀△8九飛▲6八玉△7九飛成▲5七玉(参考1図)のときに、△6三玉が銀を取りながら5一の飛車で開き王手を掛ける一手となり、王手を受けても△7二金と成銀を取った手が飛車で馬取りとなります。

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ところが広瀬八段の問い掛けに、羽生王位が「まさかとは思うんですけど、不成、不成の筋は……」と呟きました。対して広瀬八段は、「あ、不成。そうか。そうかー」と何かを悟ったかのように返しました。二人が認識し合ったその順とは・・・・・・。

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図(再掲)から▲8三銀不成が羽生王位の「不成」を示した第一弾。△7一玉▲8一角成△6二玉▲6三銀△5三玉▲3四桂△7二桂のときに、▲同銀左不成が「不成」の第二弾。以下△8九飛▲6八玉△7九飛成▲5七玉(参考2図)のときに、7二の桂を銀成でなく銀不成で取った手が燦然と輝いていて、△6三玉とできなくなっています。この変化は95手目で▲8五歩とした変化から23手にも及ぶ順で、もちろんこの順は94手目での変化のひとつに過ぎず、両者が頭を抱え合うのも理解でき、広瀬八段にとってはあまりにも酷な局面だったと言えます。

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羽生王位は参考2図までの進行を確認すると、珍しく、「「駄目だー」と大きな声を出しました。そして、「この将棋はこちらは54手目の△4四銀で、△3四飛として千日手を狙いに行くしかありませんでした」と本局の感想を述べると、広瀬八段は、「▲6三角で▲8五歩とする順は、△同歩▲6三角△8四香のときの具体的な順が分からず断念しました」と返し、感想戦はお開きとなりました。以上、第1局のハイライトでした。

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(感想戦写真 撮影:文記者)