――シリーズ4連勝という形で、防衛を果たされました。4局を振り返って、感想をお願いします。
藤井「すべて対抗形の将棋で、判断が難しいところが多かったかなと感じています。これまでは2日制で対抗形の将棋はなかったので、今回の王将戦で考えてみるとこれまでと違った感覚を得られるところもあったかなと思っています」
――今回の防衛でタイトルを20期連続獲得となり、大山十五世名人の19期連続を抜いて、史上最多記録となりました。
藤井「記録というのは意識はしていなかったんですけど、意識してもなかなか目指せるというものでもないので、光栄なことだと思っています。これまでのタイトル戦を振り返ると、苦しいシリーズも少なからずあったので、こういう結果はやっぱり幸運もあったかなと感じています」
――藤井さんが初めてタイトルを取られたのが、2020年です。その当時に感じられていた課題で、克服できたものがあれば教えてください。そして、課題として残っていること、どう克服するかの考えも聞かせてください。
藤井「当時のことは覚えてはいないんですけど、まず序盤において当時よりもいろいろな形に対応する力が少しずつ付いたところはあるのかな思っています。それでも、やっぱり考えても判断がつかない局面というのは少なからずあるので、その点は引き続き、 課題でもあるのかなと思います」
――今回は大山康晴十五世名人の記録を更新されました。藤井さんにとって、大山十五世名人はどういう存在として意識されてきたんでしょうか。
藤井「私自身は大山先生ともだいぶ離れていて、もちろん直接お会いしたりといった機会もないです。 伝説上の方というイメージですが、奨励会時代に大山先生の棋譜を並べていたことがありました。主に相居飛車の将棋で、手厚さは当時から結構、先進的な将棋を指されていたのかなという印象です。その棋譜を並べたことは、自分にとってすごく勉強になることだったと思っています」
――王将戦の開幕まで、対局間隔が空いていました。12月はほとんど対局がなかったはずです。そのことは今回のシリーズで実戦の勘に影響したり、逆に研究の時間を十分取れてよかったこともあるかと思います。その辺りはいかがでしょうか。
藤井「王将戦開幕前は対局が少ない時期だったので、その間に対振り飛車の練習をしたりなど、時間はしっかり取れたのかなと思っています。対局の間隔が空いたこともあって、中盤で時間を使いすぎてしまったんですけど、全体としては1局を集中して指すことができたのかなと感じています」
――4勝0敗というのは、これ以上ない成績です。このシリーズを満足度を教えてください。
藤井「シリーズ全体を通して見ても、2日制で対抗形の将棋はこれまで経験がなかったので、序盤から長い時間を生かして、いままでより一手一手考えて指せました。自分にとっては充実したシリーズだったといえるかなと思っています」
――立川での王将戦は4年目を迎えました。 達人戦も始まって、もっと将棋の街みたいになったらいいなと思いますが、指す人や観る人が増えるようなアイデアはありますか。
藤井「立川市ではここ数年、毎年この王将戦の対局を開催していただいていて、私自身は今回で3回目になり、盛り上がりを実感しています。今年から達人戦の決勝戦をはじめとする対局が、立川市で開催されています。公開対局と合わせて、いろいろなイベントも開いていただき、すごくファンの方や立川市の方に将棋を身近に感じていただける機会になったかなと思います。それが今後も続けばいいなと思っています」
――今回の対局地「オーベルジュ ときと」は、地元の人にもすごく憧れの場所です。居心地はいかがでしたか。
藤井「『オーベルジュ ときと』さまは、昨年に新しく開業され、 本当にすごくいいところだと聞いていましたので、私自身も楽しみにしていました。実際に伺ってみると、期待以上で本当に洗練された雰囲気があり、お食事も美味しくて、素晴らしい環境の中でも対局をさせていただきました」
――去年のタイトル戦を振り返るときに、菅井八段との叡王戦を課題として挙げていらっしゃいました。今回、菅井八段とタイトル戦に臨むに当たって、何か意識したことはありますか。
藤井「叡王戦では序盤でペースを握られてしまったり、中盤の難しい局面で急所を掴めずに時間を多く使ってしまったことがありました。今回の王将戦はこの点を意識して、対抗形の経験を積んだり、叡王戦のときよりも序盤を深く考えて臨みました。実際、それが生きたところもあったのかなと思います」
――今年は最初の防衛戦で防衛されました。いいスタートを切れた手応えはありますか。
藤井「対局の間隔が空いたときに、少し内容のよくない将棋を指してしまうことが多かったです。今回も対局が少ない状態で開幕を迎えたんですけど、コンディションを崩さずに戦っていけたというのは、手応えのある結果だったかなと思っています」
――昨年に八冠を達成されたあたりから「少しずつ戦法の幅を広げたい、球を増やしたい」という発言をされていました。今回、第4局は自分から角交換して力戦に持ち込んでいます。いままで、あまり指していなかった展開だと思うんですが、発言されたような意識があったんでしょうか。
藤井「自分自身も、本局は経験のない形でした。序盤でこちらが1歩得するような形になるので、それを生かすことができたら面白いのかなという気持ちもありました。持ち時間の長い将棋だったので、力戦というのも合っているかなと考えたというところもあります」
(書き起こし=紋蛇、写真=玉響)