(伊藤匠七段は挑戦3回目で初タイトル)
――午前の進行について。
伊藤 △4九角(58手目)のあたりまでは考えたことがありました。ただ、陣形差があるので、こちらが神経を使う展開だと思っていました。▲7五歩(65手目)に△同歩と取ったのですけど、△3六とも考えるべきだったと思います。
――▲6五歩(75手目)から▲6六銀直で先手の攻めを受ける展開になった。
伊藤 ▲6五歩△同歩▲6六銀直の筋はちょっと軽視していて、通常はまずいかなと思っていました。
――△8六歩(106手目)▲同歩のあたりは。
伊藤 手前の飛車を取られたあたりは少しまずいかなと思っていたんですけど、具体的にどうされるか、わかっていないまま指していました。
――その後は敵玉に迫った。勝算・成算はあったか。
伊藤 △5九と(116手目)から△6六桂のあたりは調子がいいと思いました。ただ、その後の具体的な手順はわかっていなかったです。
――勝ちだと思った局面。
伊藤 ▲6四桂(131手目)に△8八金から△7八金と下駄を預けて、かなり王手が続きますけど、進めていくうちに詰まないかなとは思っていました。
――本局全体の感想。
伊藤 途中はこちらだけ終盤のような感じになり、自信のない展開が続いたんですけど、なんとか辛抱強く指せたかなと思います。
――五番勝負全体について。
伊藤 全体的に苦しい将棋が多かったと思います。運がよかったなと思っています。
――初のタイトルを獲得した。
伊藤 タイトル戦では苦しい戦いが続いていたので、ひとつ結果を出せたことはよかったと思います。
――八冠の一角を崩した。
伊藤 対藤井八冠戦では苦しい戦いがずっと続いていたので、ひとつ結果が出せてよかったという気持ちです。
――対藤井戦の勝因は何か。
伊藤 本シリーズも苦しい将棋が多かったので、勝因についてはわかりません。
――「藤井世代と呼ばれるには、藤井さんといい勝負をしなければいけない」と語っていたが。
伊藤 (藤井世代と呼ばれることを)それほど意識していないですけど、今後もタイトル戦を戦えればうれしいかなと思います。
――来期に向けての抱負。
伊藤 まだ先のことではありますけど、開幕までにしっかり調整できるようにしたいと思います。
(藤井聡太叡王は初のタイトル戦敗退。八冠在位は254日だった)
――午前の進行について。
藤井 途中いろいろ変化はあったと思いますけど、本譜は一応予定の指し方で、攻めは細いんですけど、うまく食いついて玉の遠さを生かす展開にできればと思いました。
――▲6五歩(75手目)から▲6六銀直の筋はどのあたりから見えていたか。
藤井 一応考えていた指し方だったんですけど、こちらの玉も薄くなりますし、すぐに寄せきれるという形でもまったくないので、その後も見通しはなかなか立たない局面かなと思っていました。
――△8六歩(106手目)に長考して▲同歩だった。
藤井 直前の局面は少し指せている可能性もあると思ったんですけど、△8六歩に思わしい手がわからなかったので、甘いところがあったのかなという気がしています。
――終盤について。
藤井 ▲7六飛成(111手目)としてしまってからは後手玉に迫る形がないので、ちょっと厳しいかなと思っていました。
――本局全体の感想。
藤井 途中まではこちらが攻めていく展開だったんですけど、伊藤さんの△5三銀(98手目)から△5二銀という手順が指されるまで気づいていなくて、そのあたりから少し苦しい感じになってしまったと思います。
――どのあたりに誤算があったか。
藤井 △8六歩、あるいはその前の△7六歩(104手目)をしのげるかというところで、もうちょっといい対応があったかなという気もしているんですけど、振り返ってみないとわからないです。
――シリーズ全体について。
藤井 終盤でミスが出てしまう将棋が多かったので、この結果もやむを得ないかなと思っていますし、それと同時に伊藤さんの力を感じるところも多かったと思います。
――タイトル戦で初めて敗れた。
藤井 それは時間の問題だと思っていたので、あまり気にせずにこれからも頑張っていきたいと思います。
――全冠保持の期間は羽生七冠の167日より長い254日となった。全冠保持のプレッシャーはあったか。
藤井 それは特に意識せずに、これまでのタイトル戦と同じようにやっていました。
――名人防衛の際に「最近、あまりいい将棋が指せていない」という旨の発言があった。
藤井 叡王戦だと特に終盤の精度が低かったことが結果にもつながってしまったかなと思っていますけど、チェスクロックのときの時間の使い方などは以前から課題ではあったので、それが出てしまったところもあったかなと思います。
――今回はどのあたりで伊藤七段に上回られたと感じているか。
藤井 終盤で上回られたところが多くあったと思います。
――同世代にライバルがいることについて。(藤井と伊藤は21歳)
藤井 叡王戦でも伊藤さんの実力を感じることが多かったので、私自身も実力を高めていけるように頑張らなければいけないと思います。
――来期に向けての抱負。
藤井 一局一局、頑張りたいと思います。