*第9期五番勝負第5局 Feed

2024年6月21日 (金)

21日朝、常磐ホテルで伊藤叡王の一夜明け会見がありました。この様子をお伝えして、第9期の中継を終わりたいと思います。来期をお楽しみに。

【第10期叡王戦 段位別予選トーナメント表】
https://www.shogi.or.jp/match/eiou/10/yosen.html

20240621dsc_8043(叡王として初めて書いた色紙)

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――昨夜はゆっくり休めたか。

対局後ということで、なかなか深く寝つくことはできなかったんですけど、たくさんの方からお祝いの連絡をいただいて、少しずつ喜びが込み上げてきました。

――色紙に書いた「孤高」について。ハシゴ高の字を使う意図は。

「孤高」は棋士になった頃からよく書いてきた言葉で、「自分の中でしっかりと信念を持って、高みを目指して」という意味だと自分では解釈しています。ハシゴ高については、それほど深い意味はありませんが、ハシゴ高で揮毫される棋士の先生もけっこういらっしゃるので真似をしています。

――3回目のタイトル戦で奪取に成功。過去2回と何が違ったか。

竜王戦、棋王戦と立て続けにストレート負け(棋王戦は3敗1持将棋)だったわけで、叡王戦の挑戦が決まった段階では、なかなかタイトル獲得というところに意識がいっていませんでした。内容としても接戦にできていなかったので、今回は熱戦をお見せできるようにしたいという気持ちで臨んでいました。

――(上記の質問に追加で)技術的な面ではどうか。

自分としては、今年に入ってから先手番で角換わりを採用することが多くなって、今回の叡王戦は全局角換わりになりました。この戦型の理解も少しずつ深まってきたと感じています。

――昨日の△5三銀(98手目)から△5二銀について。

▲6四同飛から▲4六銀(97手目)は自分も視野には入っていたんですけど、応手の厳しさを軽視していました。▲4六銀に(△5三銀ではなく)△6三玉はハッキリまずそうなので消去法で本譜を選びました。思いのほか、先手がよさに結びつける順がすぐには見つからない、というのは幸運だったと思います。

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――タイトル獲得の地になった。次に常磐ホテルを訪れるときはどんな気持ちになると思うか。

常磐ホテルさまは伝統的な場所ですし、こちらで対局できることは楽しみにしていました。結果を出すことができて縁起のよさも感じますし、また訪れる機会を楽しみにしています。

――山梨の将棋ファンにメッセージを。

こちらの常磐ホテルさまで対局できたことはうれしく、昨日は最後まで優劣のハッキリしない実戦を見せることができたかなと思うので、今後もそういった将棋をお見せして将棋界を盛り上げていけたらと考えてします。

――帰京前に山梨でやりたいことがあれば。

山梨県は果物がおいしいという印象があります。今回も食事で振る舞っていただきました。何かお土産に買っていければと思います。

――師匠の宮田利男八段は「25歳まで酒とギャンブルは厳禁」と弟子に言っている。25歳になったらどうするか。

自分はそういったことにあまり関心がない、というのが正直なところです。

2024年6月20日 (木)

感想戦後に伊藤新叡王の記者会見がありました。明日も一夜明け会見が行われる予定です。

Dsc_7714(株式会社不二家の富永寿哉・常務取締役から花束贈呈)

20240620dsc_7794(記念撮影のあとに記者会見が行われた)

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――叡王獲得おめでとうございます。改めて獲得した気持ちを。

まだ終わったばかりですので、あまり実感はわいてこないですけど、やはりタイトルというのは子どもの頃から夢に見てきたものなので、とてもうれしく思います。

――21歳での初タイトル。2020年のプロ入りからこれまでを振り返って。

プロ入りから3年ほどでタイトル戦に出場することができて、自分としてはできすぎな結果だと思っていたんですけど、タイトル戦では厳しい戦いが続いていたので、このタイミングでタイトルを獲得できたのも幸運だったなと思います。

――獲得の喜び、感謝などの思いをどなたに伝えたいか。

お世話になっている方はたくさんいますので挙げればキリはないですけど、両親や師匠には感謝を伝えたいです。

――藤井さんに勝てない状況はどのような気持ちだったのか。また、実った感想を。

藤井さんにはずっと勝てない状況(初手合いから今年4月上旬まで11連敗)が続いていて、内容の面でも接戦にすらできていない将棋が多かったので、はっきりと実力の差があると捉えて、自分自身の棋力を上げていくしかないと感じていました。今シリーズを振り返ってみても、苦しい展開が多くて藤井さんの強さを感じるところが多かったですけど、なんとか結果が出てよかったと思います。

――山梨でのタイトル戦は初めて。会場の雰囲気はどう感じたか。

常磐ホテルはタイトル戦がよく行われている場所で、自分も一度ここで対局したいという気持ちがありましたのでうれしく思いました。実際に訪れてみて、都会の中でも自然豊かな場所でお庭の眺めがよくて、とても気持ちよく対局することができたと思っています。

――これまでは相掛かりも指していたが、今回は全局角換わりになった。

相掛かりは自分が棋士になったときから得意にしていた戦型ではあったんですけど、対藤井叡王戦で結果が出なくて。藤井叡王は先手番で角換わりを得意とされていて、その対策に苦労していたところがあって、前回の棋王戦から自分も先手番で角換わりを採用してみたという経緯があります。

――今後の新たな目標は。

なかなか現時点では具体的な目標はないんですけど、今回の叡王戦では終盤までどちらが勝つかわからないような将棋を指すことができたかなと思うので、そういった熱戦をお見せできるように頑張りたいと思っています。

――自信を持って藤井さんはライバルだといえるか。

まったくそういう認識はないんですけど、まだまだ自分のほうが実力が不足しているかなと感じているので、今後も藤井さんとタイトル戦で戦えるように頑張りたいと思っています。

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――深く研究して定跡形で勝負するスタイルを貫いている。結果が出ない中で葛藤はあったか。

定跡形から外して力戦で戦う考え方もあるんですけど、それはそれで自分がうまく指しこなせるかというところもありますし、また変化すると若干妥協して少し相手にポイントをあげられた状態で戦うことにもなりやすいので。定跡形で戦うのも一気に終盤戦に入ってしまうこともよくあるので難しいところですけど、自分の中でまだまだやってみたい将棋もあったので、定跡形で戦っているというところです。

――小学校3年生のときに戦って、タイトル戦でも戦った。昔の記憶をどう持っているか、これから戦いが続いていく中で藤井さんはどういう存在か。

藤井さんとは出身が愛知と東京で離れているので、小学生のときに対戦があったのは貴重な縁だったなと思っています。藤井さんが中学生でプロになられて、そこから自分はずっと藤井さんを目標にやっていたところが大きいので、藤井さんには自分をここまで引き上げていただいたのかなと思っています。

――藤井さんから「終盤力で伊藤さんに上回られてしまった」という話があった。中終盤の力について、自身ではどう思うか。

今シリーズを振り返っても、中盤戦ではこちらがリードを許す展開が多かったと思います。叡王戦は持ち時間が4時間のチェスクロックということで終盤は時間がない中での戦いになりやすく、そうなると終盤勝負にはなりやすかったのかなと思います。藤井さんは終盤力に定評がありますし、厳しい戦いになるかなと思っていたんですけど、その中で結果が出せたことは一つ自信につながったかなと思います。

――同世代に藤井さんという強い存在がいることはどう思っているか。

自分はずっと藤井さんを追いかけてここまで来られたと思っていますので、藤井さんがいなかったらタイトルも取れなかったと思いますし、重ね重ねになりますけど、藤井さんのおかげでこういう舞台に立てているのかなと思っています。

対局者は感想戦の前に大盤会場へ。松尾八段の質問に答える形で本局を振り返りました。

伊藤七段「角換わりから右玉を採用したのですが、先手に陣形差を生かされて激しく攻められ、自信のない展開にしてしまったと思いました。△5三銀から(△5二銀をはさんで)△4三玉と、一瞬自玉を安全にして△7六歩から攻めたところは、少し苦しいかなと思ったんですけど、そのあたりがどうだったかというのがポイントだと思います」

藤井叡王「途中までは形勢はともかく気分よく攻めていたんですけど、伊藤さんの△5三銀から△5二銀が柔らかい受け方で、△7六歩の反撃を受け止めることができなかったかなという気がしています。△8六歩に手抜くつもりではいたんですけど、具体的な手順が見つかりませんでした。たとえば▲5一飛は△8四角(飛車銀両取り)があります。思ったよりも後手玉に迫るのが難しいのが誤算ではありました」

伊藤七段「自分も対局中は△8六歩には▲同歩が本線というか、そう指されてもわからないと思っていました。ただ、△9三角から△4九とを発見して、けっこう後手も戦えているのかなと思っていました」

最後にシリーズ全体について。

伊藤七段「シリーズを振り返ると、どの将棋も終盤が難解でした。叡王戦は持ち時間が4時間のチェスクロックと短い持ち時間の中で、自分としてはうまく指せたかなと思います」

藤井叡王「シリーズを通して終盤のミスが結果につながってしまったと思います。それと同時に伊藤さんの強さを感じるところも本当に多くあったので、それを糧にしてまた頑張っていきたいと思います」

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Dsc_7519_2(涙を流すファンもいたという)

Dsc_7328(伊藤匠七段は挑戦3回目で初タイトル)

――午前の進行について。

伊藤 △4九角(58手目)のあたりまでは考えたことがありました。ただ、陣形差があるので、こちらが神経を使う展開だと思っていました。▲7五歩(65手目)に△同歩と取ったのですけど、△3六とも考えるべきだったと思います。

――▲6五歩(75手目)から▲6六銀直で先手の攻めを受ける展開になった。

伊藤 ▲6五歩△同歩▲6六銀直の筋はちょっと軽視していて、通常はまずいかなと思っていました。

――△8六歩(106手目)▲同歩のあたりは。

伊藤 手前の飛車を取られたあたりは少しまずいかなと思っていたんですけど、具体的にどうされるか、わかっていないまま指していました。

――その後は敵玉に迫った。勝算・成算はあったか。

伊藤 △5九と(116手目)から△6六桂のあたりは調子がいいと思いました。ただ、その後の具体的な手順はわかっていなかったです。

――勝ちだと思った局面。

伊藤 ▲6四桂(131手目)に△8八金から△7八金と下駄を預けて、かなり王手が続きますけど、進めていくうちに詰まないかなとは思っていました。

――本局全体の感想。

伊藤 途中はこちらだけ終盤のような感じになり、自信のない展開が続いたんですけど、なんとか辛抱強く指せたかなと思います。

――五番勝負全体について。

伊藤 全体的に苦しい将棋が多かったと思います。運がよかったなと思っています。

――初のタイトルを獲得した。

伊藤 タイトル戦では苦しい戦いが続いていたので、ひとつ結果を出せたことはよかったと思います。

――八冠の一角を崩した。

伊藤 対藤井八冠戦では苦しい戦いがずっと続いていたので、ひとつ結果が出せてよかったという気持ちです。

――対藤井戦の勝因は何か。

伊藤 本シリーズも苦しい将棋が多かったので、勝因についてはわかりません。

――「藤井世代と呼ばれるには、藤井さんといい勝負をしなければいけない」と語っていたが。

伊藤 (藤井世代と呼ばれることを)それほど意識していないですけど、今後もタイトル戦を戦えればうれしいかなと思います。

――来期に向けての抱負。

伊藤 まだ先のことではありますけど、開幕までにしっかり調整できるようにしたいと思います。

Dsc_7357(藤井聡太叡王は初のタイトル戦敗退。八冠在位は254日だった)

――午前の進行について。

藤井 途中いろいろ変化はあったと思いますけど、本譜は一応予定の指し方で、攻めは細いんですけど、うまく食いついて玉の遠さを生かす展開にできればと思いました。

――▲6五歩(75手目)から▲6六銀直の筋はどのあたりから見えていたか。

藤井 一応考えていた指し方だったんですけど、こちらの玉も薄くなりますし、すぐに寄せきれるという形でもまったくないので、その後も見通しはなかなか立たない局面かなと思っていました。

――△8六歩(106手目)に長考して▲同歩だった。

藤井 直前の局面は少し指せている可能性もあると思ったんですけど、△8六歩に思わしい手がわからなかったので、甘いところがあったのかなという気がしています。

――終盤について。

藤井 ▲7六飛成(111手目)としてしまってからは後手玉に迫る形がないので、ちょっと厳しいかなと思っていました。

――本局全体の感想。

藤井 途中まではこちらが攻めていく展開だったんですけど、伊藤さんの△5三銀(98手目)から△5二銀という手順が指されるまで気づいていなくて、そのあたりから少し苦しい感じになってしまったと思います。

――どのあたりに誤算があったか。

藤井 △8六歩、あるいはその前の△7六歩(104手目)をしのげるかというところで、もうちょっといい対応があったかなという気もしているんですけど、振り返ってみないとわからないです。

――シリーズ全体について。

藤井 終盤でミスが出てしまう将棋が多かったので、この結果もやむを得ないかなと思っていますし、それと同時に伊藤さんの力を感じるところも多かったと思います。

――タイトル戦で初めて敗れた。

藤井 それは時間の問題だと思っていたので、あまり気にせずにこれからも頑張っていきたいと思います。

――全冠保持の期間は羽生七冠の167日より長い254日となった。全冠保持のプレッシャーはあったか。

藤井 それは特に意識せずに、これまでのタイトル戦と同じようにやっていました。

――名人防衛の際に「最近、あまりいい将棋が指せていない」という旨の発言があった。

藤井 叡王戦だと特に終盤の精度が低かったことが結果にもつながってしまったかなと思っていますけど、チェスクロックのときの時間の使い方などは以前から課題ではあったので、それが出てしまったところもあったかなと思います。

――今回はどのあたりで伊藤七段に上回られたと感じているか。

藤井 終盤で上回られたところが多くあったと思います。

――同世代にライバルがいることについて。(藤井と伊藤は21歳)

藤井 叡王戦でも伊藤さんの実力を感じることが多かったので、私自身も実力を高めていけるように頑張らなければいけないと思います。

――来期に向けての抱負。

藤井 一局一局、頑張りたいと思います。

Dsc_7352(カメラマンが伊藤七段を撮影する。藤井叡王がカメラを背負う場面は珍しい)

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Eiou202406200101156

伊藤七段が藤井叡王に勝ちました。終局時刻は18時32分、消費時間は両者4時間。挑戦者の伊藤七段が熱戦を制し、五番勝負を3勝2敗で制して叡王獲得です。伊藤新叡王は念願の初タイトル。藤井前叡王は八冠独占が崩れ、七冠に後退しました。

240620_131▲6四桂(図)はどれほど利いているのか。検討陣は「金を2枚渡しても詰まない」。たとえば△8八金▲同銀△7八金▲同竜△同と。その局面で後手玉は詰みません。これは後手が勝ちそうです。「歴史が動くか」の声も出ました。

240620_124ここ十数手は藤井叡王が粘っています。金銀竜を穴熊に集結させることに成功しました。図で伊藤七段の残り時間は4分。いまだ先の見えない、激闘、死闘、名局です。

Dsc_7318(検討の熱はさめず)

240620_113図の▲6九金で藤井叡王は時間を使いきり、一分将棋に入りました。伊藤七段は残り28分。図から△4八飛▲7七銀△5九とにも▲7九金寄と逃げることになりそうです。後手に流れがきているようにも思えますが、先手玉は依然として堅く、検討陣の面々は「長い将棋になります」「終わりませんね」と話しています。大熱戦です。

Dsc_6403(延々と受け続けてきた伊藤七段。104手目△7六歩から流れを変えた)

240620_116_2藤井叡王は40分の長考で図から▲8六同歩。残り13分になりました。伊藤七段は残り36分です。△8六歩▲同歩は、いわゆる後手の利かし。この2手は後手のプラスしかないやり取りですから差は詰まったと思われます。「▲8六同歩は伊藤さんも考えていなかったでしょう」と勝又七段。注目の大一番は形勢不明になりました。

Dsc_7281_2(山田久美女流四段も現地へ)

Dsc_7302(事態は急変。モニター前に集まる。「どういう結末を迎えるかわからない」)