対局前日の記者会見です。
――名人戦と並行してのタイトル戦だが、対局に向けての調整は。
藤井 前期は対局の少ない状況で開幕を迎えましたが、対局が多いほうが状態を維持して臨みやすいというメリットもあるのかなと思っています。
――菅井八段の印象は。
藤井 菅井八段は振り飛車党で、鋭い攻めの技術と力強い受けを兼ね備えられている印象です。普段から将棋に対して非常にストイックに取り組まれている方と思っています。
――タイトル戦で振り飛車党と戦うのは初めて。
藤井 これまでとは将棋の内容が大きく変わってくると思うので、こちらもそれに合わせて調整していけたらと思っています。
――相居飛車と対抗形(居飛車対振り飛車)では、違う思考が求められるのか。
藤井 対抗形は中盤の押し引きが相居飛車と比べて長くなる印象があります。時間配分も含めて、その辺りを対応できればと思います。
――叡王戦のタイトル戦の持ち時間は4時間、名人戦は9時間と大きく違う。並行して戦うなかで、どのようにスイッチの切り替えているか。
藤井 叡王戦は番勝負のなかで持ち時間が短く、名人戦とは対照的であるんですけど、一局ごとに対局の条件が変わってくるのは自然なことでもありますし、切り替えながら何とかやっていければ。
――公式戦で対振り飛車は昨年9月の久保利明九段戦以来と遠ざかっている。実戦感覚が離れているという懸念はあるか。
藤井 ここ数年、公式戦で振り飛車党の棋士と対戦することが以前より少ないことは懸念材料ではあると思っていますが、番勝負に向けての調整はしてきましたし、対局しながら感覚をつかんでいければ。
――叡王戦五番勝負で用意されるおやつについて。
藤井 前期は「カントリーマアムチョコまみれケーキ」をいただいて、すごくおいしかったです。その前に自分が「チョコまみれが好き」とどこかで話したことがあり、それに合わせて作っていただいたのかな、とうれしかったのを覚えてます。今年も楽しみにしています。
――今年度は他棋戦を含めて多くの防衛戦が始まるが、それに向けての意気込みは。
藤井 挑戦か防衛戦かの違いを意識することはないですが、防衛戦はいきなりシリーズが始まるので、開幕までにコンディションを上げていくことが重要になると思っています。その点を意識して戦っていけたら。
――5年ぶりのタイトル戦が明日に迫ったが、ここまでの道のりを振り返って。
菅井 あまり調子がいいと思っておらず、いまの力で挑戦できるとは思っていなかったのが正直なところ。あとは精いっぱい頑張るだけと思っています。
――菅井八段にとって叡王戦は今年度の始まり。改めて、叡王というタイトルについては。
菅井 (自分が戦った)いちばん最後のタイトル戦がすごい前なので、そのときの記憶もほとんど残っていません。何といいますか、自分の数年間の悔しさをぶつけたいと思っています。
――藤井叡王の存在について。
菅井 いま最強の棋士という存在ですし、自分も藤井さんと勝負するなかで成長できると思っています。
――藤井叡王とはタイトル戦では初めて。これまでの対局と違う部分があるか。
菅井 普段の対局と変わらずにやっていこうかなと。タイトル戦は久々なので、普段の対局より自分の力がうまく発揮できるかが大切になると思っています。
――藤井叡王の強さというのは。
菅井 自分たちの世代よりも将棋の作りや感覚が違う。あとは終盤の正確さだと思います。
――振り飛車はAI全盛の現代将棋において不利といわれることがある。
菅井 確かにいまの時代、振り飛車は評価されませんし、ほとんどの棋士が採用しない作戦ですが、将棋ってそういうものじゃなく、結局最後は力比べ。そこで強い者が勝つのが将棋ですから、あまり戦型の苦しさとかは気にしていません。
――多くの棋士から藤井さんには特別な対策が必要になると聞く。今回は藤井対策としてスペシャルな作戦を用意してきたのか。
菅井 自分ではいつもスペシャルな作戦でいってるつもり。菅井流の振り飛車で頑張りたいと思います。
――直近のA級順位戦ではいい形で勝たれたが、攻略のイメージはできているか。
菅井 まったくできていませんし、将棋は始まってみないとわからないものなので、集中力を目いっぱい高めて頑張りたい。
――今回のシリーズの内容と結果によって、振り飛車党から注がれる視線が変わるかもしれない。決意のほどは。
菅井 いまの現状で自分が藤井さんに負けると、自分以外の振り飛車党では絶対に勝てませんから、そういう意味では最高の振り飛車対最高の居飛車の戦いだと僕は思っています。
(撮影=牛蒡、書き起こし=玉響)