五番勝負開幕にあたって、両対局者に記者会見が開かれました。
――五番勝負の意気込みと、斎藤八段の印象は。
伊藤 いよいよ開幕するんだなという心境で、自分にとっては昨年の叡王戦以来の大勝負。緊張感が高まっているという状況ですね。斎藤八段とは早指しの対戦はあるのですが、長い持ち時間での対局は初めて。一手一手丁寧に指されるという印象があり、また時間がなくなってからも正確な指し手を続けられます。非常に正統派の将棋だと思っています。
――将棋界には「防衛して一人前」という大山康晴十五世名人の言葉がある。
伊藤 まさにそのとおりだなと思いますし、昨年にタイトルを獲得できたのは自分としても運がよかったなという感覚もあります。今回の防衛戦が、しっかりと実力が伴っているかを問われる番勝負になるのかなと思っています。
――挑戦するときと心境に違いはあるか。
伊藤 ここ1年ほどは対局数も多くなかったですし、こういった大きな舞台での対局を経験できていなかった。久しぶりの大舞台でどういう将棋を指せるのか、というのは楽しみでもありつつ、不安もあります。
――詰将棋解答選手権で斎藤八段が出題した。それに向き合った経験と、いまどう思い返すか。
伊藤 私はその作品をまったく解くことができず残念な気持ちがあった。斎藤八段は詰将棋作家としても本当にいつも素晴らしい作品を発表されているなという印象です。
――藤井聡太竜王・名人がタイトル戦に出場しないのは久しぶり。
伊藤 ここまで2年以上、藤井さんがずっとタイトル戦に出られていたのは実力を思えば自然な現象なのかなと思っていました。斎藤八段との対戦はまた違ったシリーズになると思う。楽しみな気持ちが非常に大きいですね。
――生活面で何か新しい取り組みはあるか。
伊藤 生活リズムを整えるのは理想だなと感じているが、なかなか思っていても行動に移すのは難しく、最近は規則正しい生活とはなっていないと思う。そこは自分を律して取り組んでいかなければとは常に感じています。
――新年度が始まって、まずこの防衛戦で真価が問われている。
伊藤 昨年度を振り返ると、タイトルを獲得できたのはよかったのですが、そのあと思うような結果を出せませんでした。棋士になって5年目になりますが、成績のよい年、あまりよくない年が順番にきています。気持ちを新たにして臨み、一年を通して活躍できるような年にしたいです。
――伊藤叡王の印象と、挑戦が決まってからこれまでどう取り組んだか。
斎藤 伊藤叡王は四段になってからあっという間にトップ棋士に上り詰めた印象です。強くなる速度が周り以上といいますか、同学年の藤井さんと切磋琢磨しているといいますか。棋風は受けが強いといわれていますが、攻めも受けもバランスがよく、そして研究も深い棋士だと思っています。
挑戦が決まってから2週間ほどでしたが、公式戦がいくつかついて対局の間隔が空かなかった、日々将棋のことを考えられたのは私としてはよかったと思います。その中で体調を崩すこともなく、よい状態で迎えられました。
――五番勝負の意気込みは。
斎藤 自身としては久しぶりのタイトル戦です。以前は「大舞台なので頑張らなければ」と自分にプレッシャーをかけていましたが、それがよくなかったのではないかとここ数年は考えていました。今回はあまり気負わず、本戦と同様に「どう転ぶか分からないが思いきって指していこう」という心情で五番勝負もやっていこうと。精神的にはそう考えています。
――気持ち的に成長できたと話していた。
斎藤 棋士としての年月を重ねて、俯瞰して考えたとき自分から転ぶような将棋がありました。どこか重く背負い込んでやっている、自分が原因でタイトル戦中も疲れることがありました。自分を追い込んで勝つタイプの棋士もいますが、私の場合はちょっとリラックスしたような状態のほうがよい手が指せるのではないか。次に大舞台のチャンスがあればそういうスタンスでいこうと考えていました。
――師匠の畠山鎮八段など、周囲の反応に印象的なものがあれば。
斎藤 畠山鎮八段からは特にお話はなかったです。初めてのタイトル戦でもありませんので自分でやるように、という無言のところはあるのかなと思います。ただ勝負はここからなので。結果がどちらに出るかは分かりませんが、そのあと私のほうから連絡するつもりです。家族からは「自分らしく、好きに戦ってくればよいのではないか」と。私も同じような考えです。
――詰将棋解答選手権の出題について。
斎藤 詰将棋解答選手権が私は好きなので、選手として多く参加したのですが、今回は趣向を変えて作者として。ただ採用されるかは当日まで分からず、私も速報ブログで知りました。使ってもらえてよかったです。私の予想より難問だったようですが、正解者が少ないのがうれしいとかは特にありません。むしろ多く解いてもらえたほうが詰将棋は成就するところもありますので。解答を競う場の問題としては面白みがあったのかなと思います。参加された方の声は、また会ったときに教えてもらえたらなと。
――藤井聡太竜王・名人が19回連続でタイトル戦に出ていたが、それを断ち切った。
斎藤 19回連続というのは知らなかったですが、常にタイトル戦に出ているなという印象はありました。ほかの棋士がタイトル戦にどんどん出ていくというのも、それはそれで新しい見方ができるはずなので楽しんでいただけるのでは。ただ八冠が懸かる戦いを期待する声も相当に多いとは理解しています。藤井さんがいないから、といわれないような将棋を指したいと思っています。そのためにはまず私の頑張りにかかっている、熱戦で盛り上げたいです。
――取り組んできたことで何が手応えにつながったか。
斎藤 結果が出ないときは精神的に前向きになれない、私もそういう状態がありました。どう打破するかを考えたときの正解は人それぞれですが、私の場合は負けた日に頭を切り替えるために、思いきり詰将棋を創作する時間を作りました。敗戦というのは成績面では失っているので、その分を取り返す。そういう気持ちのコントロールの仕方が自分には合っていたのかもしれません。
――「挑戦と獲得は違う」という言葉があった。
斎藤 タイトル戦に出たからには奪取という結果は目指す地点です。ただそう思って力むのがいままでの私はよくなかったので、叡王戦本戦でやってきたことをやります。平常心で臨む、というところだけ変えずに戦ってよい将棋を指したいです。
――年度の初対局となる。
斎藤 年度の始まりをタイトル戦で迎えられるのは棋士としては喜ばしいことですが、さっそく勝負どころで始まります。昨年の叡王戦五番勝負は熱戦が多かったなと見ていて思いましたので、同様かそれ以上の将棋を指したいというのをモチベーションに頑張りたいです。