2025年6月14日 (土)

感想戦後に伊藤叡王の防衛会見がありました。

Dsc_8324(不二家の菊池祐一・執行役員から花束とペコちゃん人形が贈呈された)

Dsc_8389(会見で質問に答える伊藤叡王)

――感想戦を終えて、あらためて本局を振り返ってください。

タイトル戦でも前例があった将棋でしたが、認識不足なところが出てしまって。中盤以降はずっと自信がない展開が続いていたのかなと思います。最終盤は秒読みになったあたりから際どい局面が続いて、二転三転していたところもあったのかなと思います。

――第2局、第3局を連勝して先に王手を掛けていました。シリーズの流れについてはどう見ていましたか。

第1局に敗れてしまって、他の公式戦を含めてあまり結果が出ていない状態でした。2局目を勝つことができて、3局目は苦しい将棋を拾うことができて。第4局もそうですが、シリーズを通して押されている時間帯が長かったのかなと思います。

――五番勝負を戦った斎藤慎太郎八段の印象について。

斎藤八段は中盤でしっかりと時間を使って、精度の高い手を指してこられるという印象が今シリーズを通してありました。斎藤八段の強さを感じることが多かったです。

――王座戦では準決勝に進出しています。二冠獲得に向けての思いは。

最近はタイトル挑戦に手が届く位置までなかなかいけていなかったので、実力不足を感じることが多かったです。王座戦はまだまだ厳しい戦いが続くと思いますが、なかなかチャンスは多くはないと思うので、そういった機会を大事にしていきたいです。

――昨年のタイトル獲得時に藤井聡太七冠との関係で、チャンスがあれば二冠目を狙っていきたいけどまだまだ実力不足と話されていました。藤井七冠との距離感についてどう感じていますか。

自分自身はここ1年ほどあまり結果が出ていませんでした。内容的にもあまり実力をつけることはできていないのかなという感じがしていて、藤井七冠との距離感はあまり縮まってはいないというか、どちらかといえば広がっているような実感があります。

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――防衛という結果を出したことについて。

今回のシリーズを振り返っても、ずっと押されている時間が長かったですし、本局もかなり厳しい形勢が続いて、失冠を覚悟した場面もあったので、こうした結果につながったのが不思議な感覚です。

――昨年の奪取時と感情的にどのように違いますか。

昨年タイトルを獲得できたのは自分の人生の中でもかなり大きな出来事だったと思います。それによって自分の中でモチベーションが少し変化していったところもあったのかなと。今回もよい結果を出せたのですが、気持ちを動かさないように今後もやっていきたいと思っています。

――モチベーションの変化はありましたか。

タイトル獲得を目標にしていたので、満足感みたいなものが少なからずあったと思います。

――モチベーションの変化が成績にも反映されてしまったのでしょうか。

気持ちの変化が結果に直結しているかどうかはなんともいえませんが、タイトルを取る前と後でそれほど生活を変えているつもりはなかったです。ただ、気持ちの面での変化があったと思うので、そのあたりは今後も含めて課題だと思っています。

――獲得したタイトルを防衛するのは高いハードルだと思います。今回、防衛への思いはどの程度、強くありましたか。

もちろん防衛したい気持ちもありましたし、ここ最近の将棋の内容を見てもなかなかいい将棋が指せていないと感じることも多かったので、実力的には厳しい戦いになると感じていましたし、タイトル失冠というのも致し方ないというか、それほど恐れることではないのかなと感じていました。

――調子が少し上向いてきた感じがしますが、今回の防衛がいい弾みにという気持ちはありますか。

本局も含めて内容面ではこちらが先にバランスを崩してしまう将棋もかなりあって。もう少し均衡が取れた展開が続くような将棋を指していきたいと感じていますが、結果を出すことができたので、これを弾みにやっていければと思います。

――今、どういった目標を据えていますか。

現状は実績面での目標はあまり重視しなくなっているのかなという感じです。内容面で課題が多いと感じていますので、もっといい将棋をお見せできるようにやっていかないといけないなと感じているところです。


以上で今期五番勝負の中継を終わります。ご観戦いただきまして、ありがとうございました。

終局直後のインタビューを終え、対局者は大盤会場に移動。対局を振り返り、ファンに感謝の言葉を伝えました。

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Dsc_7984(伊藤叡王は苦しい将棋を粘り強く指し、最後は逆転に成功した)

伊藤叡王「中盤あたりから苦しい時間帯が続いていたのかなと思います。秒読みになってからは難解な局面が続いて、判断できないまま指していました。▲4七香△4五歩(88手目)に▲同飛の変化もかなりきわどくて、負けの順もありそうと思いながら指していました」

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Dsc_8010(タイトルが近いんじゃないか。そう感じた局面もあったという)

Dsc_8020(言葉を続けながら変わりゆく斎藤八段の表情。対局中も心は揺れ動いたのではないか)

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斎藤八段「今日の対局は、思ったよりうまくいったんじゃないか、もしかしたらタイトルが近いんじゃないか、と思ってしまったかなあという感じで。▲7一飛(67手目)で少し手応えがあったのですが、そこから決め手を放てず、ずるずるといってしまいました。伊藤叡王の粘りに、こちらが見えなくなってしまいました。終盤はおそらく勝ち筋があったと思うので、やはり将棋は終盤というふうに思いますし、悔しいというのが正直な気持ちです」

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終局直後にインタビューがありました。

Dsc_7938_2 (終局直後の光景。勝者にカメラが向けられ、敗者はそれを肩に背負う)

Dsc_7936(伊藤叡王は初防衛。前期第5局を想起させるような逆転勝利だった)

――相掛かりから△8七歩(22手目)と打つ展開になった。

伊藤 途中まで前例があった気がしますが、そのあたりの記憶があいまいで、ちょっと準備不足だと感じながら指していました。△7三桂(44手目)から△3三桂(46手目)としたのは妥協気味な気がしたので、あまり自信がないと感じていました。

――△5六飛(60手目)から馬を作ったあたりは。

伊藤 (△5六飛とはせずに)飛車を引くのでは、はっきり苦しいのかなと思ったのですけど、本譜も▲7一飛(67手目)のときにいい手順が見えなかったので、ちょっと苦しいと感じていました。

――▲7一飛に対して38分の考慮があった。あのあたりは難しいと感じていたか。

伊藤 なかなか駒が使えない展開というか、ちょっと攻め駒が少ない感じなので、うまく勝負できる順がないかと探していました。

――最終盤は難解だった。どのあたりで勝負(勝ち)が見えてきたか。

伊藤 △6四香(104手目)と打ったあたりは勝ちになっていてもおかしくない、と感じていました。

――防衛した率直な感想。

伊藤 苦しい時間帯が長かったかなと思うので、まったく実感はないです。

――タイトル2期獲得で八段に昇段した。

伊藤 あまり意識はしていなかったですけど、よかったかなと思います。

Dsc_7935(斎藤八段は終盤の競り合いで敗れた)

――先手で相掛かりにした。事前の予定通りだったか。

斎藤 ▲9六歩(9手目)を突いて、どの対策をされるのか分からなかったので、用意していた、というわけではないですが、考えたことはあるような局面は続いていました。

――▲3三角成△同金▲4六歩(57手目)で2枚換えになったあたりは。

斎藤 そこで決断がだいぶ鈍ってしまい、終盤に(時間の面で)響いたかなと。2枚換えならすぐに指すべきでした。(▲3三角成に代えて)▲6七銀もあるかなと思っていて、ちょっと決断が悪かったな、という感じですか。

――▲7一飛(67手目)のあたりは。

斎藤 厳密には少し指せている、というつもりではいたのですが、まだまだ嫌なところは残っているのかなという感じで。よさそうだけど、まだ展望は見えていなかったです。

――最終盤を振り返って。

斎藤 ちょっと厚いというか、何か勝ちはずっとありそうなのかな、と思っていたんですけど、△6四香(104手目)が見えていなかったので、そうなると▲4一竜(99手目)がだいぶ悪い手になったか……。代えて▲7五飛と回るべきだったとは思うんですが、その前に決める手がなかったかなあ、という感じですかね。

――この結果については。

斎藤 ギリギリのところはあったのかなと思うんですけど、最後は勝ち切れなかったので、大事なところで決めきれなかった感じです。5局とも全部難しい将棋だったかなと思います。

――シリーズを通して戦えていた実感はあったか。

斎藤 よい面もあったと思いますけど、終盤のミスみたい手もけっこう思い浮かぶので、そこが反省点かなと思います。

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▲斎藤慎-△伊藤匠戦は120手で伊藤匠叡王が勝ちました。終局時刻は19時38分。消費時間は、▲斎藤4時間0分、△伊藤4時間0分。伊藤叡王は3勝2敗で初防衛を果たしました。伊藤匠叡王はタイトル2期となり、八段への昇段も決めました。

250614_109▲7一角で後手玉は詰めろ。あとは先手玉が詰むかどうかの勝負。6八で清算するところまではいきます。決着間近です。

Dsc_7912(△6八香成▲同金△同桂成▲同玉まで進んだ瞬間のモニター映像)

250614_103図の局面。後手玉は▲7五香以下の詰めろですが、△6四香が詰めろ逃れの詰めろになっている可能性があります。実戦も伊藤叡王は△6四香を打ちました。1手で形勢が入れ替わるような激戦が続いてます。

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▲4七香で両者とも一分将棋に。斎藤八段は、後手の馬と玉を串刺しにしました。技をかけた形です。しかし、△4六歩▲同香△4五歩▲同飛△同馬▲同香△4三歩(変化図)がどうか。先手玉は△4七桂以下の詰めろになります。そこで後手玉が詰むのかどうか。逆転の可能性もありうる、ギリギリの変化です。

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Dsc_7893(木村九段は立ち続けて検討している。「まだ何が起こるか分からない」と岡崎七段)

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▲4四歩△5六桂で図。伊藤叡王が攻め合いを挑み、いよいよ終盤に入りました。斎藤八段は対局前に「終盤勝負に持ち込みたい」と話していましたが、本譜こそ望んでいた展開ではないでしょうか。残り時間は▲斎藤14分、△伊藤8分。斎藤八段は図で時間を投入しています。タイトルの行方を左右する勝負どころです。

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▲7一飛(図)は銀と香2枚の取りになっていて厳しい攻めです。控室の見解は、先手優勢で固まりました。伊藤叡王は図の局面で長考しています。「何か誤算があったとしか思えない」と岡崎七段。前期の第5局は苦しい局面から受けの妙技でしのぎ、逆転でタイトル獲得につなげた伊藤叡王。防衛のためには、前期のドラマを再現しなければいけません。

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