2024年4月20日 (土)

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藤井聡太叡王に伊藤匠七段が挑戦する第9期叡王戦五番勝負第2局は、18時20分に87手で伊藤七段の勝ちとなりました。秒読みの攻防の中で伊藤七段が藤井叡王の玉を詰ましました。消費時間は▲伊藤4時間0分、△藤井4時間0分。
本局の結果、五番勝負は両者1勝1敗になりました。第3局は5月2日に名古屋市「名古屋東急ホテル」で指されます。

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図は75手目▲4四銀の局面。少し前に両者秒読みに入っています。
常務理事として現地を訪れている西尾明七段は、▲4四銀に代えて▲4四歩で先手勝ちだったのではないかといいます。▲4四歩に△5二玉▲3四馬△6二玉▲7四桂と進むと後手玉は詰み筋でした。
実戦は▲4四銀に△5二玉▲3四馬△5一玉と引いた形は後手玉が詰みませんが、伊藤七段は▲3五馬と桂を取って△5七飛成以下の先手玉の詰めろを解除しました。どちらが勝ちか、秒読みで判断が難しい終盤戦です。

Dsc_0905 (旅館内はさまざまなものが展示されている。その中の一つ)

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図は63手目▲2四歩の局面。8七のと金を取る前の利かしです。△2四同歩と取らせることで、後の▲2四飛から▲3四飛や、図から△2四同歩▲8七金に△4五銀▲同銀△2八角成▲3四銀(参考図)と進んだ場合に、2三に駒を打てるため先手は後手玉を攻めやすくなります。▲2四歩の利かしが、△4五銀からの直線的な攻め合いの牽制にもなるわけです。
藤井叡王は図から△2四同歩▲8七金と進んだ局面で持ち時間を使いきって秒読みに入り、△4五銀▲同銀に△同桂としました。



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Dsc_1599 (叡王戦五番勝負の見届け人は特典の一つに、「対局に使用した駒をプレゼント」があり、駒を入れる平箱には両対局者と立会人が揮毫する)
【第9期叡王戦五番勝負「見届け人」を募集します】
https://www.shogi.or.jp/news/2024/03/9_31.html

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図は58手目△3五桂の局面。手数は短いですが、両者の残り時間はすでに30分を切っています。
序盤で先攻したのは藤井叡王。途中で伊藤七段が▲4五桂(49手目)と跳ねて反撃に出ましたが、図の局面は再び後手攻勢を取りつつあります。攻守の流れに関していえば、藤井叡王が押し返しつつあります。
伊藤七段は残り10分まで考えて▲3六馬。指し手だけでなく、今後の方針の方向性も考えていたのかもしれません。藤井叡王も▲3六馬に手を止めて時間を使っています。先手からは▲4一銀△同玉▲6三馬の王手角取りの狙いもあります。

Dsc_1313 (伊藤七段は局面をまとめきれるか)

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図は50手目△6四角の局面。実戦はここから▲3三桂成△同桂▲3七銀上と進んでいます。大盤解説会で伊藤真六段は「控室では▲3七銀上とするなら、▲3三桂成としないで指すと予想していました。ただ、その場合は△4四金とかわされて▲5三桂成と成れないのが気になったのだと思います。本局は1手の比重が大きい将棋です」と話していました。
▲3三桂成は王手をかけつつ駒得する自然な手ですが、損得は微妙なようです。伊藤七段は▲3三桂成に26分考えて、残り50分を切りました。藤井叡王は残り1時間9分です。

Dsc_0975(藤井叡王の後ろ側に飾られているのは、陶芸家の北村隆氏による北前船を描いた九谷焼の作品)

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現地では14時から事前申込制による大盤解説会が開かれています。15時からは立会人の谷川十七世名人がゲスト出演していました。谷川十七世名人は「局面は先手ペースに思います。馬が弱点をカバーしているのが大きい。いないと将来△3六桂と打たれてしまうのが厳しいです。▲7六歩は△同飛▲4五桂△4四金▲5三桂成△6四角で、成桂だけでなく△4六角の銀取りも生じるので、損になる場合もあります」と話していました。

Dsc_1532 (多くの方が来場している)

Dsc_1526 (谷川十七世名人がゲスト出演)

Dsc_1540_2 (村田智穂女流二段)

Dsc_1560 (「叡王戦」の題字は、棋戦設立当時に日本将棋連盟会長だった谷川十七世名人が書いたもの。「現在まで使われているとは思わなかったです」)

15時になり、午後のおやつが出されました。
伊藤七段は「プレミアムショートケーキ」と「アイスティー」。
藤井叡王は「ペコパフ(じわるバタープレミアム)」と「金沢湯涌サイダー 柚子乙女」。

Dsc_1482 (伊藤七段のおやつ。ショートケーキは口どけのいいシャンテリークリームと国産イチゴをサンド)

Dsc_1485 (藤井叡王のおやつ。ペコパフはバター風味の生地に、口どけの良いバター入りカスタードホイップを充填)

Dsc_1495 (お菓子を開け、サイダーをグラスにつぐ)

本局の見届け人のアテンド役を佐藤康光九段と貞升南女流二段が務めています。貞升女流二段は昨日、4月19日が誕生日でした。

Dsc_1447 (検討の様子)

Dsc_1449001 (佐藤康光九段は見届け人の方に検討の解説をしながら冗談を言って場を和ませるのだが、こうした表情を見せることも)

Dsc_1451 (谷川十七世名人が検討の様子を見守る)

叡王戦で3連覇中の藤井叡王ですが、五番勝負の後手番は苦戦。現在、1勝3敗2千日手です。前期第4局の千日手指し直し局(2回目)が、藤井叡王にとって叡王戦五番勝負の後手番初勝利でした。先手番では9勝0敗1千日手なので、現在は偏りがあります。
先手番の伊藤七段にとっては、番勝負の成績を五分に戻すためや対藤井叡王戦の初勝利、といった意味でも、アキレス腱を攻めて勝ち星を挙げたい一戦です。

藤井叡王の叡王戦五番勝負における後手番局の成績は以下の通りです(対戦相手の肩書は当時のもの)。
21年8月3日 第6期第2局 ● 豊島将之叡王
21年8月22日 第6期第4局 ● 豊島将之叡王
22年5月15日 第7期第2局 千 出口若武六段
23年4月23日 第8期第2局 ● 菅井竜也八段
23年5月28日 第8期第4局 千 菅井竜也八段
23年5月28日 第8期第4局 ○ 菅井竜也八段

Dsc_1423 (柴山潟をカモが泳いでいた。気持ちよさそうでも、見えないところで懸命にこいで進んでいる)