2021年9月13日 (月)

感想戦の終了後は、場所を移して記者会見が行われました。藤井新叡王には叡王戦を主催する株式会社不二家から、河村宣行・代表取締役社長の手で花束が贈呈されました。また、記念品として「ペコちゃん」人形が贈られました。

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――お疲れさまでした。三冠おめでとうございます。
藤井 ありがとうございます。
――今の率直なお気持ちをうかがえますでしょうか。
藤井 そうですね、今回叡王戦で結果を残すことができたんですけど、そのことについてまだ実感がないという感じがします。今回のシリーズは自分にとってフルセットになって、勉強になったシリーズだと思っています。
――朝は対局に向かうとき、どんな気持ちでしたか。
藤井 フルセットが自分にとって初めてのことだったんですけど、そういったことを意識せずに普段通り臨めればと思っていました。

――今回の対局にどのような準備をされてきたのでしょうか。
藤井 叡王戦第4局がこちらの完敗だったので、その反省を踏まえて、序盤で形勢を損ねてしまうことがないように一手一手しっかり指そうと思っていました。

――番勝負は新人王戦から何回かあったと思いますが、同じ相手に番勝負で負けたことがありません。どういったところに自分の強みがあると思っているか、どういったことを心がけているのか、教えてください。
藤井 番勝負だとひとつ負けても終わりではないので、その分、伸び伸び指しているところはあるように思います。

――現役棋士で最多タイとなる三冠になりました。全冠制覇の期待が高まっています。藤井さんにとって冠を重ねるということはどんな意味を持つのでしょうか。
藤井 去年からタイトル戦に出させていただく機会が増えまして、それで得たものも大きかったですし、そういった経験が今回の番勝負でも生かせたと思うので、いいサイクルができているのかなと思います。

――最年少ということはあまり意識していないと、最終的にどこまでやれるかが大事とおっしゃったと思うのですが、最終的に、とはどのあたりのことになるのでしょうか。
藤井 最終的とは現時点でないんですけど、どこまで強くなれるかということが自分にとっていちばん大事なことかなと思っているので、強くなることを常に意識して取り組んでいきたいと思っています。

――去年まで豊島叡王に6連敗だったと思うのですが、今年になってこれだけ短期間の間にこれほど盛り返したことについて、どう分析されていますか。
藤井 内容的には押されている対局が多いので、あまり盛り返したという意識はないんですけど、今年の朝日杯で初めて勝つことができて、それで王位戦と叡王戦に落ち着いて臨むことができたという面はあるのかなと思っています。力としては及ばない部分もまだまだあるのかなと感じています。

――本日のおやつ「コロコロしばちゃん」を食べるときに心が痛まなかったでしょうか。また、ペコちゃんはご自宅に飾られる予定でしょうか。
藤井 おやつに「コロコロしばちゃん」をいただいて、本当にすごくかわいらしい見た目だったんですけど、あまりじっと見ていると食べるのが惜しくなってしまうので、すぐにおいしくいただきました。今回、不二家さまからペコちゃんの人形をいただいて、サプライズでとても驚いたんですけど、このあとお家に飾ろうと思います。

――25歳が強さのピークであると語られてきました。19歳で三冠達成となりましたが、あと6年、どのように過ごしていくのでしょうか。25歳にどういうイメージを抱いていますか。
藤井 25歳が絶対的なピークかというのはわからないのですが、その段階になったらまだまだ強くなる余地があると考えるようになると思いますが、現時点ではそういったイメージで取り組んでいけたらと思っています。日々の対局で課題が見つかるので、それを少しずつ改善していって引き続き強くなることを目指していきたいと思っています。

――羽生先生が25歳のときに七冠を達成されました。今回、三冠まで達成されましたが、ご自身に八冠制覇の可能性がどのようにあるかをうかがえたらと思います。
藤井 全冠制覇については現時点ではまったく意識することはないかと思っているんですけど、ひとつの理想の形ではあります。そのためにはいま以上に強くなることが必要になってくるので、より実力を高めたうえでそういうところに近づけるのは理想なのかなと思っています。

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――藤井さんは将棋を指すことを通じて新たな盤上の景色を見たいと語ってきました。この夏の豊島さんとの連戦で、新たに得た気づきや発見はありますか。
藤井 本当に今回は豊島叡王とこの叡王戦で対戦する機会に恵まれて、自分にとって得るものが多いシリーズだったのかなと思っています。特に序盤や中盤の形の認識でその精度に差をつけられてしまうことがあり、そのあたりを今回の対戦で強く感じたことはあったので、改善して次につなげていきたいと思っています。
――豊島さんはこの先にも恐らくたびたびタイトル戦で競う相手になると思うのですが、藤井さんにとって豊島さんという棋士はこの先、長期的に見てどう向き合っていく存在になるでしょうか。
藤井 自分にないものを多く持たれている方かなと思うので、対戦する中で自分としては勉強して取り入れていけたらいいのかなと思っています。

――三冠というのは羽生九段、谷川九段、中原十六世名人、大山十五世名人、一時代を築いた名棋士たちが成し遂げてきた偉業だと思います。ご自身がそこに19歳で達したということについて、どんな感想があるでしょうか。
藤井 過去に三冠になられた方は偉大な棋士ばかりなので、その点、光栄に思っています。ただ、それは自分自身の今後がさらに問われることでもあると思っているので、むしろ今まで以上に取り組んでいく必要があるのかなと思っています。
――(藤井新叡王は)そういう名棋士の系譜に連なるお一人ではないかと思うのですが、今後、一時代を築いていくような責任感といいますか、「自分がそういう立場になるんだ」という意識はありますか。
藤井 三冠という立場になって身の引き締まる思いではあるんですけども、責任感を感じるというわけではない、将棋は個人競技なので、自分の将棋にしっかり向き合っていきたいという気持ちが強いです。

――叡王戦の前身が、棋士とコンピュータが戦う電王戦でした。ソフトを参考に研究されている藤井新叡王としてはどのような思いがあるでしょうか。
藤井 電王戦は将棋界の枠を超えて注目していただいた棋戦だと思うので、大きな意義があったのかなと思います。今後は人間のほうがコンピュータの長所を取り入れて強くなっていくことを目指す段階だと思うので、自分がそういった将棋を体現できればいいなと思います。

――地元(愛知県瀬戸市)では非常に喜んでいることと思います。市民へのメッセージを頂戴できたらと思います。
藤井 瀬戸市の皆さまには応援いただいて、非常に励みになっています。今回、なんとか叡王獲得というよいご報告ができることをうれしく思いますし、今後も楽しんでいただけるような将棋を一生懸命指していけたらと思います。

――竜王戦もあることで四冠を目指すことになると思いますが、抱負をお願いします。
藤井 竜王戦でも豊島竜王とのシリーズになるので、王位戦と叡王戦での反省を生かして頑張っていきたいと思っています。

――今回の叡王戦、非常におやつが充実していました。いかがでしたでしょうか。
藤井 今期から主催の不二家さまに対局中におやつを提供いただくという形になって、自分自身も毎局楽しみにしていましたし、対局中にお菓子をいただくことでリフレッシュして対局に臨むことができたのかなと思います。

――(タイトル獲得の)実感がわかないとのことでしたが、このあとどれくらいしたら実感がわくのでしょうか。
藤井 難しいですね。先ほど花束やお人形をいただいて実感がわいてきた部分もあったんですが、現状に満足してしまってはよくないところもあるので、これからも意識せずに前を向いていけるのがいいのかなと思っています。

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■藤井聡太新叡王
――一局を振り返っていかがだったでしょうか。
藤井 序盤から積極的に動かれて、こちらが対応できるかという展開だったかと思います。かなり難しい中盤が続いていたのかなと思うんですけど、▲6七銀引(65手目)から▲7六歩(67手目)として8筋、7筋を収めることができたので、なんとかバランスを保てたのかな、という気がします。
――終盤の形勢はどのように感じていましたか。
藤井 飛車を圧迫される感じになって、取られるとこちらの玉が薄いので、本譜のように切っていくのは成算がなかったというか、どうやるのかわからなかったです。
――勝ちになったと思ったところは。
藤井 ▲6二金(107手目)と打って勝っているかなと思いました。
――叡王を獲得されたことについて。
藤井 まだまったく実感がないんですけど、フルセットは自分にとって初めてで、その中で結果を出せたのはよかったかなと思います。
――19歳1ヵ月の最年少三冠になられました。
藤井 それも本局に臨むに当たって意識はしていなかったんですけど、これからも対局が続くので結果のことは意識せずに前を向いていけたらと思っています。
――羽生善治九段は22歳3ヵ月での三冠達成でした。羽生九段の記録を大きく越えたことについては。
藤井 自分としては年少記録は気にしていないというか、最終的にどれだけやれるかということのほうが大事なのかなと思っています。
――シリーズを振り返って。
藤井 シリーズ通してきわどい将棋が多かったかなと思うんですけど、第4局はこちらが完敗だったので、内容的には課題を感じる部分もあったんですけど、フルセットまで指せて勉強になったシリーズだったのかなと思います。
――竜王戦に向けては。
藤井 1ヵ月近く間があるので、しっかり準備をして臨みたいと思います。

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■豊島将之前叡王
――本局を振り返っていかがだったでしょうか。
豊島 途中まではけっこう難しかったと思うんですけど、△8四銀(68手目)と引かされる展開になったので苦しいのかなと思っていました。その前の手順がよくなかったと思います。
――今シリーズを振り返っていかがだったでしょうか。
豊島 苦しい将棋が多かった印象ですね。
――夏場の王位戦と続けて藤井さんと盤を挟む期間が長かったですが、そのことについて。
豊島 強い棋士と指して課題がたくさん見えてきましたし、勉強になった10局だったかなと思います。
――防衛戦である竜王戦に向けて。
豊島 短期間で修正できるところはして、1ヵ月準備をして頑張りたいと思います。

歴代の三冠達成者一覧です。藤井新叡王は史上10人目、最年少での三冠達成。羽生善治九段が持つ記録を28年ぶりに更新しました。

  三冠達成日 達成時の年齢 獲得タイトル(獲得順)

藤井聡太

2021年9月13日 19歳1ヵ月 棋聖 王位 叡王

羽生善治

1993年1月6日 22歳3ヵ月 棋王 王座 竜王

中原誠

1972年6月8日 24歳9ヵ月 十段 棋聖

名人

谷川浩司

1988年6月14日 26歳2ヵ月 王位 棋王 名人

渡辺明

2013年3月24日 28歳11ヵ月 竜王 王将 棋王

豊島将之

2019年5月17日 29歳0ヵ月 棋聖 王位 名人

森内俊之

2004年6月11日 33歳8ヵ月 竜王 王将 名人

大山康晴

1959年6月12日 36歳2ヵ月 王将 九段 名人

升田幸三

1957年7月11日 39歳3ヵ月 王将 九段 名人

米長邦雄

1984年1月23日 40歳7ヵ月 棋王 王将 棋聖

Eiou202109130101111 この局面で豊島叡王が投了し、藤井聡太王位・棋聖の勝ちとなりました。終局時刻は18時22分。消費時間は、▲藤井聡4時間0分、△豊島4時間0分。藤井聡太王位・棋聖は初の叡王位獲得。三冠になりました。19歳1ヵ月での達成は史上最年少です。

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依然として激しい戦いには入らず、じりじりとした押し引きが続いています。豊島叡王は△8四銀(68手目)と引かされ、2枚の銀が8筋に追いやられて働きが弱くなってしまいました。金銀が左右に分裂していること、居玉であることなど、中央に駒が集まっている先手陣に比べると苦労の多い形といえます。

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将棋会館の1階では盤駒や棋書、将棋グッズなどを販売しています。豊島叡王と藤井王位・棋聖の揮毫扇子やクリアファイルが置いてありました。

2階の道場は対局を楽しむだけでなく、大盤解説会や式典が行われる場所でもあります。今日は高浜愛子女流2級が指導対局を行っていました。

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猛烈な勢いで進んだ午前中とはガラリと変わって、午後はスローペースで進んでいます。両者とも残り時間は約1時間になりましたが、本格的な戦いは始まっていません。刃を交えずににらみ合うような濃密な中盤戦が続いています。立会人の塚田九段は▲6五歩を検討中。「▲6五歩に△5三銀と引いて玉が堅いと思っていたんですが、▲6七金と寄られると8筋に出た銀がつんのめっています。となると、▲6五歩に△7五銀と出るかもしれませんね」と話しています。

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豊島叡王と藤井王位・棋聖は、今回の叡王戦五番勝負と並行して、お~いお茶杯第62期王位戦七番勝負でもタイトルを争いました。王位戦は4勝1敗で藤井王位・棋聖が防衛。叡王戦はどちらが制し、合わせて「十二番勝負」の連戦はどのような決着を迎えるのでしょうか。藤井王位・棋聖は第34期竜王戦で挑戦者になり、竜王を保持する豊島叡王と七番勝負を戦うことが決まっています。タイトル戦での対戦が続くことは、両者の活躍ぶりを示す証左といえるでしょう。

同じ年度に対戦が続いた例では、羽生善治九段と佐藤康光九段が2005年に棋聖(五番勝負)、王位(七番勝負)、王座(五番勝負)のタイトルを争って「十七番勝負」の連戦を経験しています。さらに2人は年明けから王将(七番勝負)を懸けて戦いました。結果はすべて防衛。この年度は羽生九段が王位、王座、王将を、佐藤康九段が棋聖を防衛しています。