2026年5月31日 (日)

感想戦後、伊藤叡王の花束贈呈と記者会見が行われました。

Dsc_5021_2794(主催の不二家より、花束と「ペコちゃん人形」が贈呈された)

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Dsc_5038_2797(続いて記者会見)

――今日の将棋ですが、先手を得たときは相掛かりでいこうと、あらかじめ決めていたのでしょうか。

伊藤 今日は振り駒でしたので、先後どちらも考えていました。先手なら相掛かりのつもりでした。

――斎藤八段も含めて相掛かりが多いシリーズでした。最後まで手厚く臨めたのでしょうか。

伊藤 斎藤八段はどの戦型も指される印象でしたので、何を指されるかは決め打ちしづらいところはありました。自分が先手のときに迷いもあったのですが、フルセットということで最後は指しなれた相掛かりを指そうと思いました。

――伊藤叡王はタイトル4期すべてフルセットです。フルセットに強いと思っていますか。あるいはフルセットにしたくないと思っていますか。

伊藤 フルセットで結果が出ているのはたまたまで運がいいとしか言いようがないと思います。今期は最初2連勝で、もちろん第3局と第4局も勝つつもりで臨んでいました。その中で斎藤八段にうまく指されて、私としても力が及ばなかった感じがしています。

――叡王3連覇をどのように受け止めていますか。

伊藤 3連覇はいずれもフルセットということもあって、どのシリーズも最後まで際どいシリーズだと感じています。結果については幸運だと思っています。自分なりに一局一局全力で臨めていると思うので、それが結果に現れたのはうれしいです。

――先日(王位戦挑戦者決定戦後のインタビュー)もご自身で運がいいとおっしゃっていました。7月から王位戦七番勝負があります。運の流れがきているのか、弾みがついているととらえているのか、どのようにお考えでしょうか。

伊藤 対局自体は一局一局、別の物と認識しているので流れを意識することは少ないですが、5月は重要な対局が多かったなかで、どの将棋も大変でしたがいい結果を出せたので、今後も前向きな気持ちで過ごしていけたらと思います。

――前期と今期は挑戦者が斎藤八段ということで同じ顔合わせになりました。五番勝負に臨むうえで心境の違いはありましたか。

伊藤 前回は初めての防衛戦で緊張感がありましたし、直前の公式戦の成績があまりよくなかったので不安な気持ちもありました。今期は1度防衛戦を経験したこともあって、そこまで気負わずに臨めたと思います。

――受け答えも含めて自信に満ちて、現在の第一人者という感覚を受けます。ご自身の中では、今回タイトル4期目ということで自覚が生まれているのでしょうか。

伊藤 自分としては、まだまだ実力も人間的にも足りない部分ばかりだと思うのですが、タイトルは重みのある立場と認識しています。普段の公式戦から一局一局、タイトルホルダーとして恥ずかしくない将棋を指していきたい気持ちはあります。

――叡王防衛により、二冠のまま王位戦七番勝負で藤井聡太王位への挑戦が決まりました。王位戦への意気込みをお聞かせください。

伊藤 藤井王位相手に1勝を挙げることも大変だと思っています。厳しいシリーズになると思いますが、タイトル戦自体、簡単に出ることのできない貴重な舞台だと思いますので、一局一局を大事に指していけたらと思います。

――今期の五番勝負で5局指して、印象に残った対局をお聞かせください。

伊藤 自分としては負けた将棋が印象に残っています。第3局、第4局とも印象深い対局でした。昨年から斎藤八段とのシリーズではどちらも秒読みの長い展開になることも多かったです。第3局と第4局では、秒読みの時間帯が長いなかで、斎藤八段に集中力で上回られてしまったと感じたところがありました。斎藤八段の強さを感じましたし、自分自身の今後の課題にしたいと思いました。

――特に第4局は大熱戦ということで名局賞候補という声もありました。伊藤叡王の敗戦でしたが、どのような印象でしたか。

伊藤 名局賞候補といっていただけるような熱戦を指せたのはよかったと思います。ただ、いくつかチャンスの局面もあったと思うので、正しく指せなかった後悔の気持ちも強いですね。

――2期連続で斎藤八段とのフルセットの激闘でした。斎藤八段の強さをどのあたりに感じますか。

伊藤 斎藤八段はミスの少ない将棋で、安定して高い精度の手を指されると今期も前期も感じることが多かったです。特に今期では、秒読みに入ってから最後まで集中力を高く保って指されているところに強さを感じました。

――7月からの王位戦七番勝負でタイトル獲得すると三冠王になります。注目が集まると思いますが、王位戦への期待についてどのように感じていますか。

伊藤 先ほども述べましたが、藤井王位から1勝挙げるのも大変なことだと思っています。ですので、まだ意識する段階ではないと思うのですが、タイトル戦は多くの方に注目していただける舞台です。なるべく一方的にならないように、スコアでも内容でも競ったシリーズにしたい気持ちが強いですね。

――ご自身の中で第5局の中で勝負を決めた一手を挙げていただけますか。

伊藤 勝負を決めた、というほどではありませんが、中盤に△6六歩(60手目)と突かれたところで長考して▲7七桂と跳ねました。最初は▲7四歩のつもりで考えていて、それが思わしくないので予定変更だったのですが、長考してうまく軌道修正できたのではないかと感じています。

――叡王3連覇して、伊藤叡王にとって叡王とは何か、というのをお聞かせください。

伊藤 叡王戦は初めて獲得できたタイトルで、八大タイトルの中でも愛着のある棋戦です。

――伊藤叡王にとって、この先に見据える目標をお聞かせください。

伊藤 具体的な目標は定めていませんが、将棋は一局指すごとに常にわからない局面がたくさん出てきます。もっと実力を高めて、少しでも深いところまで理解できるようになりたいというのが目標ですね。現実的なところではタイトル戦に常に出たい意識は強いです。

(撮影=紋蛇、書き起こし=銀杏)

第11期叡王戦の中継は、以上で終了となります。ご観戦いただき、ありがとうございました。第12期もお楽しみに。

大盤解説会から対局室に戻り、両対局者は感想戦を行いました。終了したのは20時28分です。4月3日にシンガポールで開幕した本シリーズは、5月末に日本で無事に幕を閉じました。

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Dsc_4999_2789(伊藤叡王のタイトル獲得は4期に達した。すべてフルセットの勝利であり、勝負強さを感じさせる)

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Dsc_5004_2793(礼に始まり礼に終わる。2か月続いたシリーズが終わった)

感想戦の前に、両対局者は大盤解説会に出演して、ファンに感想と感謝の気持ちを述べました。斎藤八段は「逆転の筋を探したが」と語っています。昨年とは違い、本局は斎藤八段がリードを奪った場面はなかったようです。伊藤叡王が終始、押していた将棋でした。

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Dsc_4935_2775(終局直後)

Dsc_4936_2776(インタビューは勝者から。敗者はカメラを背負う)

Dsc_4949_2777(伊藤叡王は3年連続フルセットを制しての3連覇。本局は作戦勝ちから押しきった)

Dsc_4951_2778(斎藤八段は2年連続での敗退。あとひとつ、あとひとつが届かなかった)

【伊藤叡王の談話】

――本局は相掛かりになり、序盤の▲6六歩が工夫という評判でした。

「そうです。あまり前例はないかなと思うんですけど、ひとつの構想なのかなと。やってみたい将棋のひとつでした」

――▲3五歩と仕掛けました。この辺りはどのようにみていましたか。

「後手に銀冠に組まれるのは、ちょっと許したくなかったので。何か動いていかないといけないかなと思ったんですけど。▲3五歩に△6五歩と突かれてからは、かなり1手1手が難しい将棋だなと感じていました」

――控え室だと、実戦の▲8六歩は(人間には)指しにくい手なのではといわれていました。この辺りの感触はどうでしたか。

「△8四飛に▲8六歩は、突ければ突きたいところかなと思ったんですけど。ただ、本譜の△6六歩と突かれた局面で、最初は▲7四歩と突くつもりだったんですけど、それがあんまり思うようにいかなくて。そのあとの▲7七桂は予定変更ではありました」

――△6七歩成▲同銀△8五歩に▲7四歩と攻めました。この辺りの形勢判断は?

「かなり際どいかなと思ったんですけど。一応▲7二とと取って、考えているうちに少しはイケていてもおかしくないかなという感じもしていました」

――そのあとの終盤戦はどのようにみられていましたか。

「△6四角と打たれた辺りは、何か手段がありそうな気がしたんですけど。ただ、はっきりとした手は見つけられなくて。何かずっとはっきりしないなと思いながら指していました」

――その後、イケそうだと思われたのはどの辺りですか。

「▲2三飛成と飛車を成った辺りですかね」

――全体を通しての感想をお願いします。

「相掛かりのひとつやってみたい形ではあったんですけど、かなり中盤が難しくて。わからない部分も多かったんですけど、自分なりにうまく指せた部分もあったんじゃないかなと思います」

――今シリーズは2連勝、2連敗からの防衛でした。シリーズ全体を振り返っていかがでしたか。

「最初は白星先行でいけたんですけど。あと1勝が遠い展開で、かなり大変なシリーズだった気がしています」

――3連覇を達成しました。

「やっぱり本当に大変なシリーズだったので、結果が出てほっとしているのが正直なところです」


【斎藤八段の談話】

――午前中はどのような印象でしたか。

「あまり考えてはいない将棋になって。▲3五歩に△6五歩と突いて、結構難しいような感じで思って進めていたんですけれども、進むにつれてあんまり自信がなくなっていったかなと。そのあと▲4五銀から▲4七金とされて、3四歩が安定してしまったので。△2二銀と上がるタイミングをもう少し待つんだったかなとか。本譜の△6五歩で対抗できていないかなと感覚的には思っていたんですけれども、進むと自信がなかったです」

――角が狙われているような展開だったかと思うんですけど、その辺はどう判断していましたか。

「角はいずれ交換にはなると思っていたので。誤算といいますか、3四の歩と7筋のキズが2つ残っちゃったので、思っていたより自信のない変化に入ってしまったかなという気がしていました」

――△6七歩成から△8五歩は▲7四歩が見えていたので、かなり決断の一手だったと思います。この辺りの形勢をどのようにみていましたか。

「少し悪いのかなと思って。本譜はちょっと負けを早めるかもとは思いつつ、辛抱する手も思い浮かばなかったという感じです。何かそこで、うまく辛抱する手があれば、難しい可能性もあるかと思ったんですけれど。うーん、本譜は少し負け筋だろうなと思いながらではあったんですけど、ちょっと我慢できなかったという感じでした」

――全体を通しての感想をお願いします。

「そうですね……。うーん……。難しいかなと思っていた局面が、自信が徐々になくなっていったというか、そういう意味では読みが甘かったのかなというところもありそうですね。最終盤とかも粘る手があったか……。うーん、全体的にはずっと自信がなく、苦しい将棋なのかなという。徐々に差を広げられてしまったかなという気がします」

――今シリーズは連敗スタートだったんですが、2連勝で追いつかれました。シリーズ全体を振り返っていかがだったでしょう。

「最初の2局で負けてしまって、そこからはずっと厳しかったです。そのなかで何か打開策みたいなのをみつけていこうと、前向きにはやっていたとは思うんですけれども。本局は、ちょっとチャンスは少なかったかなと思っています」

――作戦的にはご自身がやりたいようなことはできたんでしょうか。

「そうですね。ただ、それもうまくいったと思える将棋はそんなになかったので、全体的に本当に苦しい展開が続いてたかなと思います」

――2期連続挑戦で、あと一歩でした。恐縮ですが、その辺りの感想もお願いします。

「そうですね……。フルセットで2期連続対局できましたので、結果は出なかったですけれども。そうですね、今後に生かせるようにしなければいけないなと思います」

Dsc_4961_2780(斎藤八段は無念な表情を浮かべた)

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20260531105 先手は2八にいた飛車を竜にすることに成功しました。伊藤叡王がリードを保っています。斎藤八段は苦しい情勢ですが、△3二金▲2一竜△3一金打と辛抱強い指し回しです。

Dsc_4928_2773_2(図より少し前の対局室)

Dsc_4931_2774(同じく控室)

盤上で熱戦が続くなか、外は刻々と日が暮れていきます。街には明かりが灯り、夕食時。飲食店では人々が団欒を楽しんでいました。

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2026053193_2図で斎藤八段は持ち時間を使いきって、△8六角と打ちました。これは△4一金から示されていた千日手の順がありません。△8六角に伊藤叡王も持ち時間を使いきって、▲4二角と迫りました。いよいよ一分将棋のたたき合いです。

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図から☖4一金☗5二角☖同金☗同成銀☖8六角と進むと、90手目☖8一飛と同じ局面になる。それは、千日手です。控室では☖4一金に☗6四角も示されていました。先手は攻め方が複数あるため、図で△4一金と受ければ千日手にするかの選択権は伊藤叡王にあります。

Dsc_4825_2768(斎藤八段の扇子には、ホタルが描いてあった)

2026053172図は▲6五桂と跳ねた手に△6四角と打ったところです。攻め合いは負けと判断して攻防手を放っていますが、粘りにいった印象を受けます。手番の先手には豊富な持ち駒を生かした攻めがたくさんあり、伊藤叡王は▲8二歩△同飛▲8三歩△同飛▲7四角と飛車を目標にしました。しばらくは伊藤叡王の厳しい攻めが続きそうです。斎藤八段は耐えられるでしょうか。

Dsc_4818_2729(再開直後、伊藤叡王の視線が鋭かった)