表彰式のあとに記者会見が開かれました。
(里見倉敷藤花への記者会見)
―――3期ぶりの倉敷藤花です。いまの率直な気持ちを。
里見「将棋が苦しかったのでホッとしています。終わった直後で実感はあまりありません」
―――苦しかったというのはどのあたりの局面でしょうか。
里見「(60手目に)△1六歩▲同香△1二歩としてしまって、手としてちょっと指してはいけなかったかなと思いながら指してしまいました。そのあたりが問題でした。△6三金と寄って強く勝負するほうがよかったかもしれません」
―――勝ちを意識されたのは。
里見「逆転したと思ったのは▲2五金打を△同角(100手目)と取ったところです」
―――四冠になりましたが。
里見「苦しかった将棋がたくさんあったので、運にも恵まれていたのかなと思います」
―――第1局でかなりしっかり読まれて指されていたということでした。ああいう流れをうまく持ち込めましたか。
里見「そのつもりでいましたが、難解な変化が多くて結構時間を使ってしまい、時間がなくて仕方ないかなと決断したところもあります」
―――女流王将戦第2局と同じような将棋になりました。意識されていましたか。
里見「公式戦でも指していて、どの変化にしようかと迷ったところもありました。じっくりした戦いにしようと思っていました。(60手目で)△6三金の変化は自然と思っていましたが、その先が分からなくて指しきれませんでした。
―――△3四角についていかがですか。
里見「甲斐さんが局後攻め急いだといっていたように、あそこでは差が少し詰まっていると感じていましたが、対局中は難しいと思いました」
―――ご両親がこられているとのことで、どのように報告されますか。
里見「親とは近況や他愛ない会話をすることが多いです」
―――甲斐さんには倉敷藤花戦や女流王位戦で敗れています。その意味で因縁深い対局かと思いますが。
里見「甲斐さんは普段のときと対局のときで切り替えられる方と思います。おとといから一緒なのですが、イベントのときは普通に話してくださります。今日は今日で全然違います。当たり前ですけど。今日は向こうから手を変えられた感じなので、準備されているのを感じました」
―――体調についてはいかがですか。
里見「いまはわりと少し安定している感じ。すぐれないときはゆっくり休んでいて、自分で管理しています。今日は大丈夫です。しんどいときも正直ありますが、自分の中で消化していかないとしかたないです」
―――今年は復帰されて、対局が増えています。これまで、まだ1つしか負けていません。ご自身でどのような将棋を指せているなという手応えを教えてください。
里見「休んでいた分、読めないところもありますし、課題はたくさんあります。その中でも対局を大事に指しているつもりではあります」
―――苦しいところがあったということで、満足できないところや思うように指せないところもあるかもしれないと思いますが。
里見「完璧に指すのは自分の実力では無理ですし、トップ棋士でも難しいとおっしゃっているので、目指していてもできないと思いますが、間違えることに対してあきらめない気持ちで補っていければ。一局を通してそのような気持ちで指せるように努力したいですね」
―――奨励会の三段リーグでも指されていますが手応えは。
里見「棋力が足りないというのは自分の最大の課題。積み重ねを大事にして、少しでも強くなれるように、としか思っていないです」
―――倉敷藤花戦はレセプションがありまして対局まで1日開きました。
里見「いまは体調のこともあって、イベントに出られないのですが、機会が少ないだけに県外や私の地元の方もこられて、温かい声が直接聞こえて、とてもありがたかったです」
―――あまり笑顔が見られませんが、緊張されている感じですか。
里見「緊張というか、うれしいのですが、強くなりたいという思いが一番なので半分半分みたいな気持ちです」
―――女流棋戦の全制覇という期待も高まります。
里見「自分が期待されることはうれしく思います。状況次第ではプレッシャーになることもありますが、それを受け入れられるような気持ちで将棋に対しては真摯に向き合っていきたいです」
―――地元の方やファンの方にはどのような言葉をかけられましたか。
里見「体調面に気遣ってくださいますし、体調にいいことをお話しくださったり。普段お会いできない県外のファンの方も『応援しているよ』と声をかけてくださりうれしかったです」
―――里見さんにとって倉敷藤花は初めて獲得したタイトルです。それをまたあらためて手にしました。
里見「倉敷藤花戦を高校生のときから持たせていただきました。それを今回獲得できましたが、一番うれしいのは倉敷の方が声をかけてくださったり応援してくださったり、以前甲斐さんに敗れたときも声をかけてくださったことは印象に残っています。
これからいい将棋を指せるかどうかわかりませんが、自分なりに考えて一生懸命指せればそれでいいのではと思っていますので、一生懸命やっていく気持ちが強いです」
―――今回のタイトル獲得で、通算タイトルが20期になり、歴代2位になりました。
里見「全然知らなかったので、いま聞いてそうなのかと思いました。自分が強くなって、自分の将棋が自信を持って指せるようになりたいです」
―――女流棋士の対局だけでなく、奨励会の対局もありますが意気込みを。
里見「どうしても体調との相談になりますが、自分にできることをできる限り頑張っていきたいです。応援してくださることは励みになりますので、そのような方がいることを忘れずにやっていきたいです」
(甲斐前倉敷藤花)
―――終わったばかりですが、今日の戦いの思いを。
甲斐「終わったばかりで気持ちの整理はついていませんが、自分の力を出し切れたかなと思います。
終盤の勝ちになったかなと思ったところで焦ってしまって、際どいところで正解を指せなかったので悔しい気持ちですね」
―――残念な結果ですが、あらためて里見さんの将棋の印象を。
甲斐「すごく妥協のない姿勢で一手一手取り組んでいる将棋と思います。自分も対戦して、引き上げられるような相手だと感じています」
―――里見さんは休場された後復帰したわけですが、将棋で変わったこととかありましたか。
甲斐「特に根本的なところでは変わらず、ひたむきさの強い将棋だと感じています」
―――今日の将棋を振り返っていただきますが、甲斐さんから見てのポイントはいかがでしたか。
甲斐「△1二歩(62手目)と受けられる少し前に▲7三歩成△同金▲7五歩(57手目)として、指せるのではという感触がありました。△1二歩は一番我慢された手で、指されると一番嫌な手といいますか。終盤の△3四角は見えていなくて、本譜でギリギリ寄っているのではと思っていたのですが、打たれて難しくなりました。
―――3連覇はなりませんでしたが、3年連続で倉敷にこられて甲斐さんの名前が浸透したと思います。
甲斐「このような舞台で指せたことはありがたいことでしたし、さらに自分の実力を磨いていきたいという気持ちになりました。未熟なところばかりですが、努力していきたいです。また倉敷へ戻ってこれたらいいなと思います」
(銀杏)
図は118手目△2五金まで。先手玉が2六に出てきたため、玉頭の厚みが大事です。
▲4五銀左と玉の近くに駒を集めたところで里見女流三冠は手番を生かして△2五金と王手。守りをはがして、厚みを消していきます。実戦は▲2五同銀△同歩▲3五玉△3四歩▲3六玉。後手玉が手順に安全になりました。
(銀杏)
図は97手目▲5三との局面。甲斐倉敷藤花は角をきり、飛車を捨てて激しく攻めました。
「先手はよさそうだったので、▲5一角(89手目)と打たずに指すのが有力だったのではと思います」と谷川九段。そして、図では△3四角が攻防になると話します。
菅井竜也七段も「△3四角と打たれると先手陣も嫌な形になりますね」という見解。
二人が話している間に、里見女流三冠は△3四角と打ちました。▲4三とを受けながら△1六桂を厳しくして攻防手です。形勢は揺れ動いています。
(銀杏)
図は85手目▲7六飛の局面。先手が盛り返して逆転模様のようです。里見女流三冠の60手目△1二歩からの動きが疑問視されています。
図の▲7六飛と4六から転じた局面で双方一分将棋に入りました。▲7六飛は堅さを生かした攻め。△6五桂なら▲7一飛成と成り込めます。実戦は△7五歩▲3五角△同歩▲5一角と甲斐倉敷藤花が激しく攻めました。
(銀杏)