記者会見
■里見香奈倉敷藤花の記者会見
── 改めて今日の将棋を振り返って。
里見 似たような形は経験があったのですが、今日の将棋のような構想は珍しくて、中井さんの積極性を感じました。その中で自分の力が出しやすい展開に進めていけたかなと思います。
── ゴキゲン中飛車は予定の作戦ですか?
里見 そうですね。中飛車でいくことは決めていました。中井さんの作戦をふたつに絞っていて(今日の展開は)少し意外ではあったのですが、大まかなところでは想定通りかなと思っていました。
── 今日の将棋で勝ちを意識されたのは?
里見 勝ちを意識したのは最後ですね。△7六馬(88手目)と引いて少し勝っているのかなと思いました。
── 今回、倉敷藤花のタイトルを獲得して単独最多(通算11期目)になりました。その点については?
里見 昨日から注目していただけていることは実感していて、こうして結果を出すことができてうれしく思います。
── デビュー当初から清水女流七段を「憧れの人」とおっしゃられていましたが、今期、倉敷藤花を獲得したことで清水女流七段の記録を抜きました。その点については?
里見 初めてのタイトルが倉敷藤花で、当時はまだ学生でしたし、そういうタイトルを末永く防衛することができて、うれしくは思います。ただ、清水さんは偉大は先輩ですし、将棋を離れたところでの立ち居振る舞いも美しいので、人間的に清水さんのように成長できればと思います。
── 昨日、記録については「平常心で臨む」と伺いましたが、実際はどうでしたか?
里見 特に変わったことはなくて、昨日、倉敷に来て関係者の方々とお会いする中で、今年はコロナ禍で、本当に細かい部分にまで気を遣っていただいていることを実感しました。そのことに関しては大変感謝しており、対局には気を引き締めて臨もうという気持ちでいました。
── これまで倉敷藤花戦は公開対局で「応援を力に」とおっしゃっていましたが、今期はそれがなかったことで何が力になりましたか?
里見 個人的には、始まる前は倉敷での開催は厳しいのかなと思っていて、そうした中で開催していただけることを知ったときは本当に励みになりました。例年とは違う形でしたが、より励まされる思いが強かったです。
── 今期の三番勝負は、中井女流六段という目上の方との対戦でしたが?
里見 個人的に中井さんに関しては、NHK杯戦で青野(照市九段)先生に勝たれたシーンがすごく記憶に残っていて、当時、私は小さかったですが「こんなに強い女性がいるんだ」と衝撃的でした。前回の中井さんとの対局から期間が空いていたのですが、今期の三番勝負は防衛戦というよりは、向かっていく気持ちでいました。
── 今回、中井女流六段は「女流タイトル戦最年長記録」を樹立しての挑戦でしたが?
里見 自分では客観的に見ていて、やりにくさはなかったです。最近は私も長時間の対局で体力を維持する難しさを実感していて、中井さんはそれ以上に大変な中、今回、勝ち上がってこられて素直に尊敬と言いますか、経験値からくる強さ、それ以外のこともすべていいコンディションで戦われているのかなと思いました。常にご自分のペースを持っていて、相手関係なく堂々としていて、すごく盤上に集中されている、というのが今回の対戦で一番実感したことです。
── この先もタイトル戦は続きますが、意気込みをお願いします。
里見 まだまだ力的には弱いところがありますので、それを克服できるように、これからも頑張りたいと思います。
── 「弱いところ」とは具体的に?
里見 将棋を指したあと、ゆっくり反省して見えてくるところも結構たくさんありますので、まずは目の前の対局に集中して、反省して、という繰り返しの中で常にいい状態で挑めたらと思います。
── 大盤解説の菅井竜也八段は「最近の里見倉敷藤花は、優勢になっても攻め込む姿勢を崩さない」とおっしゃっていましたが?
里見 その時々によって変えてはいますが、自分の力が出しやすい展開に持っていくことを心掛けています。個人的には、あまり危険な道を選ばないようにはしていますが、自分の好奇心もあって踏み込んでしまうこともあります。結局は、どのような局面になっても勝ちきれる力をつけるしかないのかなと思っています。
── 最近は大山(康晴)十五世名人の棋譜を研究されているという話を伺いまして、周りからは「受けも強くなった」という評判もあるようですが?
里見 昔から大山先生の棋譜は並べていますが、私自身は結構逆転されることもあり、よくなってから勝ちに結びつける力が足りていないと実感することがあります。大山先生の棋譜を並べて「勝ちを逃さない強さ」を少しずつ確実にしていきたいと思います。
■中井広恵女流六段の記者会見
── 今回、最年長挑戦者としてタイトル戦を迎えたことについて。
中井 やっぱり50代になりますと、タイトル戦への出場が難しい年代に入ってくるのかなと思っていたのですが、男性棋士でも同じ年代の方が活躍されていますので、それはひとつの励みと言いますか、刺激にはなっています。
── 今日の将棋は、▲4五桂(39手目)や▲3七角(43手目)が積極的でいい構想だと評判でしたが?
中井 割と早々に△5六歩(22手目)と突かれて、本譜のように指すか(23手目▲6六銀に代えて)▲5五歩と打ってより激しくいくか、というところでした。自分では積極的に桂を跳ねていったつもりでしたが、結果的に見ると、それほどうまくいっていなかった感じがします。
── 感想戦では▲1五角(53手目)の辺りでは模様が悪いとのお話でしたが?
中井 ▲1五角で悪いというか、元々構想的にうまくいっていなかったのか、その辺りはもう一度精査しないと何とも言えないですね。
── 今日の将棋は、早い段階で持ち時間を使いきった、ということもあったと思いますが?
中井 最近はタイトル戦に限らず、割と序中盤で時間を使うスタイルになってしまって、終盤に時間がなくなることが多いのですが、構想を考えている時間も楽しいので。やっぱり事前に研究していても、相手を前にして盤に向かうといろいろな手が気になったりしますので、そういうのをまた家に持ち帰って、研究を重ねて、次につながればと思います。
── 今回の挑戦は、同年代の棋士の方々にも励みになったと思いますが?
中井 段々と歳を重ねるに連れて具体的な目標が見えなくなってきて、漠然と「今年も頑張ろう」という感じになってはいるのですが、そういう意味では今回の挑戦はタイトルという、はっきりとした目標につながったので、勝ち上がることは大事だなと感じました。
── 今回の挑戦を終えて、今後のことについて。
中井 挑戦者になってから最年長の記録ということで、いろいろと取材を受けたりしましたが、私自身は記録はそれほど関係ないと思っています。記録はそのうち抜かれるものですし、人がどうであれ、自分自身がこの歳になって挑戦できたことが大きく、少し自信につながったかなと。その意気込みが今後もあればいいのですが、若い子たちも強くて活躍していますし、正直大変だとは思いますが、できるところまで頑張りたいと思います。
── 倉敷藤花戦については?
中井 自分にとって倉敷藤花戦は、結構いいところまで勝ち上がっていることが多くて、相性的にはいい棋戦なのかなと思っています。なので来期以降も活躍できればと思っています。
以上で第28期大山名人杯倉敷藤花戦三番勝負の中継を終了します。ご観戦ありがとうございました。来期もどうぞよろしくお願いいたします。
(夏芽)