【高野智四段の談話】
――対局を振り返っていかがでしたか。
「ちょっと自信がないのかと思っていたのですが、具体的にどう悪くなるかはわからなかったので。でも受ける展開になって、自分らしさみたいなものが出せたのかなと思います」
――△2二歩(62手目)で、いったん局面が収まりましたが、その辺りでは形勢をどう見ていましたか。
「できればあの変化は選びたくなかったので、何か(別の手段は)ないかと探したのですが、見つからなかったのでしょうがないかなという感じでした。ただ、形は凄く悪いのですが、一周して読んで見ると、こちらがすぐ悪くなる変化は見えなかったので」
――形勢が良くなったと思ったのは、どのあたりですか。
「最後の方の△5六歩(82手目)と合わせたところは、やっと攻めのターンが回ってきて、ちょっとやれるのかなと思いました」
――師匠の木村一基九段が王位を獲得された直後でしたが、そのあたりは何かいい影響がありましたか。
「師匠も新人王を獲られていますので、今年こそはという思いがあったのですが、(師匠が)王位を獲られて、自分も頑張らなければいけないという思いが常にありました。その中で、一つ結果を出すことができて、大変嬉しく思います」
【増田康六段の談話】
――今日の将棋はいかがでしたか。
「序盤はちょっとうまく行っているのかなと思ったのですが、第2局目と同じで優勢になる変化が見つけられなくて、負けてしまったという感じでした」
――工夫した指し回しだったと思いますが、そのあたりは研究した作戦でしたか。
「そうですね。雁木が予定の作戦だったのですが、本譜は▲5六銀左(35手目)が珍しい形なのですが有力かなと思っていて。作戦としてはうまくいっていたのかなと思います」
――どのあたりが想定外でしたか。
「△2二歩(62手目)と打たれた局面で。あそこは角が5五でいい位置にいるので、悪くないのかなと思っていたのですが、むしろかなり大変で。そこから厚みを作られて負けてしまいました。あそこでもっといい手順があったのかどうか、という感じですね」
――3度目の優勝を逃したという点はいかがですか。
「優勝はしたかったのですが、相手にうまくやられてしまったのかなという感じがします」
(八雲)
この局面で増田康六段が投了しました。終局時刻は17時35分。消費時間は、▲増田2時間59分、△高野2時間56分。高野智四段が初優勝を決めました。
(紋蛇)
時刻は17時30分を回りました。一手違いの終盤戦が続いていますが、プロの見立てでは、後手の勝ち筋が見えてきたと言われています。高野四段が初優勝に近づいています。
(八雲)
図は16時頃の局面。控室では当初▲7二銀が予想されていました。対して(1)△9三飛なら▲6六角△6五桂▲8五桂△9二飛▲8三銀不成(下図)で先手好調と見られていました。
しかし、飛車を見捨てて(2)△5四銀の強手がありました。以下▲8三銀成△5五銀▲7三成銀に△4六銀(下図)で後手優勢と結論。従って▲7二銀は成立しないとされました。
62手目の図に戻って、増田六段が選んだのは▲2九飛と引く手。この手も控室で検討されていましたが、△5四銀で後手好調と見られていました。実戦も△5四銀と進み、以下▲4六角のぶつけに△2三歩が味のいい手です。先手は▲3五歩と突きましたが、△4五銀▲5五角△4四銀(下図)で後手好調というのが控室の見解でした。
ただ、実際にそこまで進んでみると、△4四銀に▲6六角や▲8八角と引いておけば、次に▲4六歩と修復する手を見て、後手も忙しいと見解が変わっています。指し手が進むごとに検討陣の見解も変わる難解な将棋。両者ともに力を出しており、形勢は予断を許しません。
(八雲)
図は15時頃の局面。
ここで△8三飛は▲4五歩△5五銀▲同銀△同歩▲同角△2二歩の局面で「先手に手段が多い」と阿部光六段。そのため、後手としては△7六飛と踏み込んでみたい局面だといいます。そこで先手の応手も広いのですが、(1)▲6七銀△7五飛▲7七桂△6五桂▲同桂△同飛▲7六銀に△2八歩はやや先手自信なし。(2)少しひねって▲6八金右(次に▲7七金直△7五飛▲8六金で飛車を取る狙い)△7五飛(飛車を取られないようにする手)▲6六角△8五飛▲4五歩は先手やれるかもしれないといいます。いずれにしろ、ここは勝負どころです。
「△7六飛に▲6八金右は先手玉が広くなる意味もあるので好感触ですね。(2)の順は有力かもしれません」(阿部光六段)