第20回2回戦

2012年5月 1日 (火)

最強の駒を攻めよ

1_11016時50分頃、局面が慌ただしく動き始めた。高橋九段は竜を中段に展開し、△6五銀(図)と中央一帯を制圧。盤上で最も働いている駒を攻めよ、は中終盤で間違いの少ない指針だ。ここから▲7七馬△7六歩▲9九馬△7七銀と進み、後手は前へ前へぐいぐいと押し込んでいく。馬の力が消えると、先手は急に心細くなった感がある。形勢は後手に傾いてきたようだ。

第2ラウンド

1_91加藤九段は▲3九香(図)と防壁を築き、後手の竜をシャットアウトした。互いの玉に寄り筋がなくなり、ここから再度作戦を練り直すことになりそうだ。第2ラウンドの開始である。駒割は後手の銀香得だが、歩切れであること、8筋の飛車が働いていないため、形勢は難しい。この局面で、加藤九段は持ち時間が残り6分。対する高橋九段は58分残していて、時間では後手有利だろうか。しかし加藤九段は「1分将棋の神様」の異名を持つ、早見え早指しで鳴らす棋士。今後の展開がどうなるのか、まだまだ予想がつかない。

103

二枚角vs二枚飛車

1_81図は加藤九段が本日2回目の▲7三角を放った局面。5一の金と9一の香を狙う角打ちだ。先手は意外に懐が広く、角1枚なら渡してもすぐに寄ることはない。駒得しているのは後手だが、すぐ先手玉を寄せる筋がないのであればまだまだ大変だ。実戦はここから△4二金上▲5一角成△4一香▲7三馬引△6四桂と進んだ。熱のこもった押し引きが続いている。

207
(空を覆っていた雲は薄くなり、晴れ間がのぞいてきた)

駒得を主張

1_73図は16時頃の局面。加藤九段が桂を打ち、次に▲4四桂~▲5一角成の攻めを見たところだ。これに攻め合うなら△3五桂▲4四桂△4二金寄が一例で、後手は先手玉を引っ張りだしたとき上部で押さえられるかが勝負になる。実戦、高橋九段の選択は△5二桂。狙いの▲4四桂を消し、息長く指そうということだ。後手は△9九竜、△1九竜で香を取る手があり、長引けば駒得が生きてくると考えているのだろう。△5二桂の局面は四枚の桂が自陣に据えられる珍形になった。今後は、後手が駒台の香を生かしてどれだけうまく手が作れるかで形勢が決まってきそうだ。決め手が出せなれば、長期戦になる可能性もある。

169

飛車がものを言う将棋

1_59高橋九段は交換から手にした桂を使い、飛車を奪うことに成功した。先手の飛車が角と刺し違えるまで、どんどん指し手が進んでいく。飛車を手にするために打った△6四桂が働くかが焦点か、と思われていたが、次の△8九飛が思いのほか受けにくい。加藤九段はそれを受けるため、7七の銀を▲8八銀(図)と引いた。それまで動けなかった桂が△7六桂と動けるようになるので、苦しい選択だっただろう。逆に言えば、高橋九段はここまでの展開を見通して△6四桂を決断していたと言える。図ですぐ△7六桂なら▲7七銀△8九飛▲7九歩の底歩でひとがんばり、これが先手の狙いだ。実戦、高橋九段はじっと△7五歩。以下▲同歩△7六桂▲7七銀△8九飛(下図)と進んだ。

1_64取れる歩を取らずに歩をぶつけたのが、彼我の距離を的確にとらえた手だ。ここで手を渡しても、角角桂の持ち駒しかない先手には、後手陣に対する有効な攻めがないと見ている。飛車がものを言う将棋になっているのだ。△8九飛は次の△2九飛成~△5五桂を見て厳しい。受けも難しい局面だ。加藤九段、正念場を迎えている。

178

雨上がる

午後になって雨が上がる。雲の上からぼんやりと日も差してくる。木々の葉がうるうると輝いていた。

196

201

199

後手、仕掛ける

1_48図は14時50分頃の局面。ついに高橋九段が動いた。先手の飛車が狭いことを見越して、桂交換から桂を使って先手の飛車に働きかけようとしている。控室ではここから▲4七銀△7七桂成▲同銀△5六歩▲同飛△5五桂▲3六銀△3五歩▲4五歩△5三角(参考図)が調べられた。

Aa_585五の駒を歩から桂に打ち換え、銀をつり出して△3五歩で捕まえるという構想だ。参考図で▲5五飛なら△3六歩。こう進めば、後手は銀桂交換の駒得になる。先手も豊富な持ち駒を生かしての反撃が楽しみだが、桂を渡すと△4六桂が生じるため制約も多い。やや先手に苦労の多い局面だろうか。

188001
(先攻する高橋九段。このままペースを握れるか。写真は対局再開時のもの)

ゴールデンウィーク

先月末からゴールデンウィークに入っていることもあって、きょうは平日ながら将棋会館2階の道場は盛況。1階の販売コーナーにも人の姿が多い。5月1日発売の『将棋世界』6月号ほか、加藤九段の扇子も見つけることができた。

193

195
(加藤九段の揮毫は「剛毅」。イメージにぴったりだ)

達人戦では2度目の対局

加藤九段と高橋九段は、富士通杯達人戦では2度目の対局になる。前回の対局は第9回(2001年)でのこと。高橋九段の矢倉に、後手の加藤九段は矢倉中飛車で対抗。後手の攻めをうまく受け流した高橋九段が勝利を収めた。棋譜は下記リンクから見ることができる。

・第9回富士通杯達人戦2回戦第4局 ▲高橋道雄九段-△加藤一二三九段
http://jad.fujitsu.com/event/2001/shogi/applet/24.html

2_131

軽快な形の後手、息を潜める先手

1_46図は14時頃の局面。高橋九段は△2三銀(図)と銀冠の骨組みを作り、形を整えた。最近の横歩取りや相掛かりでは、この銀冠の形を作ることがひとつのトレンドになっている。後手は桂を活用し、先手玉の急所を狙う5筋を伸ばし、飛角も軽い形。一方の先手はすべての筋に歩を打ってしまい、なかなか駒が前に出ていかない。「後手は動きやすそうですね」と話すのは、本日の立会人を務める高田尚平六段。棋士立会人制度は、その日の全対局が終了するまで進行を見守るという新しい制度だ。14時過ぎ、加藤九段が時間を使っている。

194