151手まで加藤九段が熱戦を制した。終局は17時41分、消費時間は▲加藤2時間58分、△高橋2時間36分。
△6四同歩は▲同竜で▲3二歩成で受けがない。両王手を受けるには△5一玉だが、▲3二歩成△4二金引なら▲同と以下の即詰み。▲3二歩成に△4二銀は▲4一と以下の即詰み。
後手がリードを奪ったかに見えたが、加藤九段の怒涛の反撃が始まった。▲2五桂(図)がその第一弾で、玉頭の金に狙いをつけて厳しい。△4三金寄とよろけたが、続く▲3三飛が重戦車の主砲の如く強烈な打ち込みだ。以下△3二銀打▲3五飛成(下図)と進んだ。飛車を成り返った手が6筋の銀に当たっている。
3筋をよく見ると、下段に今か今かと待ち構えていた香の姿が。次の▲2四桂が竜、馬、香をいっぺんに働かせて詰めろになり、これがおそろしく厳しい。後手はこの狙いが見えているにもかかわらず、受けが難しい。たとえば歩を補充する△5六銀は、▲2四桂ならそこで△3四歩と遮断できるが、バッサリ▲3二竜と切られるとそのまま寄せられてしまいそうだ。下段玉、歩切れといった条件が受けにくさに拍車をかけている。
16時50分頃、局面が慌ただしく動き始めた。高橋九段は竜を中段に展開し、△6五銀(図)と中央一帯を制圧。盤上で最も働いている駒を攻めよ、は中終盤で間違いの少ない指針だ。ここから▲7七馬△7六歩▲9九馬△7七銀と進み、後手は前へ前へぐいぐいと押し込んでいく。馬の力が消えると、先手は急に心細くなった感がある。形勢は後手に傾いてきたようだ。
高橋九段は交換から手にした桂を使い、飛車を奪うことに成功した。先手の飛車が角と刺し違えるまで、どんどん指し手が進んでいく。飛車を手にするために打った△6四桂が働くかが焦点か、と思われていたが、次の△8九飛が思いのほか受けにくい。加藤九段はそれを受けるため、7七の銀を▲8八銀(図)と引いた。それまで動けなかった桂が△7六桂と動けるようになるので、苦しい選択だっただろう。逆に言えば、高橋九段はここまでの展開を見通して△6四桂を決断していたと言える。図ですぐ△7六桂なら▲7七銀△8九飛▲7九歩の底歩でひとがんばり、これが先手の狙いだ。実戦、高橋九段はじっと△7五歩。以下▲同歩△7六桂▲7七銀△8九飛(下図)と進んだ。
取れる歩を取らずに歩をぶつけたのが、彼我の距離を的確にとらえた手だ。ここで手を渡しても、角角桂の持ち駒しかない先手には、後手陣に対する有効な攻めがないと見ている。飛車がものを言う将棋になっているのだ。△8九飛は次の△2九飛成~△5五桂を見て厳しい。受けも難しい局面だ。加藤九段、正念場を迎えている。