2008年10月18日 (土)

【梅田望夫観戦記】 (4) 昼食休憩、佐藤康光棋王の局面解説

 解説役の佐藤康光棋王に、昼食休憩、28手目△4四銀の局面での「5級向け解説」と「初段向け解説」と「五段向け解説」をお願いした。以下、佐藤棋王の言葉です。

 

「5級向け解説」

 陣形をみてわかるとおり、先手渡辺竜王は玉を▲7七銀▲7八金▲5八金でしっかりと玉を守っています。「玉の守りは金銀3枚」というのは将棋の格言通りです。あと攻める駒が右辺ですね。守り駒が左辺、攻め駒が右辺。後手の羽生挑戦者のほうの陣形は、まだちょっと微妙なところなんですね。なんというか、基本的に、相手の攻めを見て反撃するので、はっきりした守り駒攻め駒という区別はついていないです。……これ、五級向けになっているかな?

 でまぁ、渡辺さんとしては攻め込みたいんですけれども、こういうときは▲1五歩、△同歩、▲同銀といきます。数の攻めですから、銀を前に進ませるには、▲3五歩は同歩とただで取られてしまって、それ以上は前に進めないですね。ですから▲1五歩から進めることになりますけれども、▲1五歩、△同歩、▲同香といくと、もし△同香と取ってくれれば▲同銀と前に進めますが、△同香と取らずに後手に△1三歩と受けられて、やはりそれ以上、銀が前に進めない。そこで、攻めるとしたら▲同銀と銀でいくのが、棒銀でよくある攻め方です。△同香なら▲同香といって、銀香交換で駒損なんですけれども、端を破れそうなので、そうやって攻めるのが棒銀戦法のひとつの狙いになります。

 ……というのが五級向け。実際は渡辺さんはそう攻めないと思いますが、初級者のアマチュアの方はそうやって攻めるのがわかりやすいのでおすすめです。

 

「初段向け解説」

 五級向けだと、先手渡辺竜王持ちですよね。あきらかに。五段だと、いい勝負。初段だと……先手持ちなのかな。初段向け解説、難しいですね。

 あっ、初段向けの解説、ひとつ思いつきました!

 ここで先手が▲8八玉と入るとどうなるでしょうか。▲8八玉とあがると、後手にうまい手があります。△8五桂と跳ねる手があるんです。いやー、これいい解説だね、自分で言っていても!(笑) 羽生さんが飛車を引いたばかりだからいいんですよ。

 先手は玉を囲いたいんですよ。玉はしっかり入城しないといけないので、▲8八玉と矢倉囲いにしたいのですが、この局面でそうすると、それは後手の狙いにはまって、△8五桂。以下▲8六銀と逃げると、△5五角と王手飛車が来るわけです。角打ちですね。王手飛車がかかると、これはダメですね。△8五桂に対して▲6八銀と引いても、△5五角で王手飛車です。△8五桂には▲6六銀と上がるしかないのですが、そこで△6五歩が、続く好手です。以下、▲同銀ととれば、△5五角と打たれて王手飛車となります。

 あらかじめ後手の羽生さんが△8一飛車と引いているんですけど、この手が生きてくるんですね。飛車を引かずにこの局面になっていると、先手が▲8八玉とあがって△8五桂と跳ねたときに、先手の▲7三角が王手飛車。逆に、後手が王手飛車をかけられてしまいますね。△8一飛車にはそういう深謀遠慮の意味があります。

 先手がこの局面で▲8八玉と上がる場合は、まず角の利きを遮断して、つまり、いったん▲6六歩と突いてから▲8八玉と上がるのが手順です。▲7七銀という一枚だけでナナメを遮断しているが不安があるので、▲6六歩と突いて二重に遮断してから▲88玉と上がるのが、手堅い手順なんですね。

 おお、初段向けのいい解説が、できたできた!(笑)

 

「五段向け解説」

 前例のあまりない局面ですね。類似形はあるんですけれど。一手損角換わりでは少ないです。

 羽生さんは右玉ということになりそうですが、渡辺さんの棒銀は、一気に攻めつぶそうというのではなく、羽生さんの右玉を誘ったことに満足し、銀を3七に引いて使って、これから駒組み勝ちを狙う、ということだと思います。玉の固さで勝つ展開を狙っている。穴熊もあり得ます。

 午後は一手一手が微妙なので、あまり手が進まないかもしれません。

 渡辺さんは▲3七銀と引いて、次に飛車先を交換しようとするでしょうが、羽生さんはそれを許さないでしょう。

 普通の角換わりでこういう将棋はよくあったんですが、後手の飛車先の歩が違うんですね。後手が右玉にしたときの飛車先の歩が、8三がいいか8四がいいか8五がいいか。それぞれいろいろあるのですが、8三だと反撃力がなくて先手が安心なので、いずれ8四歩を突くと思います。

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写真は16日午後ノートルダム大聖堂をバックに撮影。