第53期王位戦七番勝負第1局 Feed

2012年7月11日 (水)

1_67▲6九歩(図)に深浦九段が押し殺したような悲鳴をあげた。ここで△1七歩成が無条件で入るからだ(▲同香は△同香成▲同玉△1九飛で寄り筋)。実戦は△1七歩成▲3九玉△6一竜と進んだ。深浦九段は「すごい手ですね。今までは振り飛車らしく筋よくいった手が裏目に出てしまっていましたが、▲8七角から▲6九歩は、非勢を認めて粘りに出ています」と話す。この底歩は受けの勝負手だ。角を投資して自陣から竜を追い出し、「もう一勝負」のすごみを利かせている。もはや形勢が明確に後手よしであることは疑いない。藤井九段の粘りは実を結ぶだろうか。

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1_64△6八飛成(図)と成り込まれ、藤井九段が考えている。▲8一馬が銀取りの先手で桂を取る「おいしい」手だが、△5三歩と受けられると後が続かない。控室の見解は後手よしに傾いている。「△1二香、△2五歩……。序盤で問題視されていた後手の手が、全部利いてきていますよね」と深浦九段。特に△2五歩と△2三銀の形は、1筋の端攻めをアシストする強いパーツになっている。左からは飛車が迫り、逆サイドの端からも火の手があがっている。現在は先手を持って自信のない形勢。「どこで悪くなったのか……」と深浦九段は首をかしげる。藤井九段、ここが踏ん張りどころのようだ。

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1_59藤井九段は▲5五歩(図)と突いた。控室ではこの手に代えて▲1一角△6一飛▲9一角成などが検討されていたが、どれも一筋縄ではいかない。見た目は先手がよさそうなのに、具体的によくする順を示すことができない。この▲5五歩は△同歩なら▲同角で弾みがつき、次に▲5四歩と取り込めれば後手陣を乱して攻めやすくなる。力をためた手なのだ。ただ、後手に△4六飛と切られる筋もできる点は一長一短。何より、ここで後手に手番を渡す不安がある。深浦九段は「藤井さんはいいと思っていないんでしょうね」と言う。だから直線的に進めずに含みを持たせようとしている、ということだろう。形勢よしと見ればシンプルに、悪いと見れば複雑に、が将棋のセオリーだ。深浦九段はもう一度局面を見て「不思議だなあ」とつぶやいた。

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(雲が空を覆い、風も出てきた。一雨きそうな雰囲気だ。予報は曇のち雨)

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1_49図は17時25分頃の局面。藤井九段はすんなり角を成らせて▲9七桂(図)と端に逃げた。次は▲8五桂で飛車先をブロックし、続いて▲4六角と出る味がたまらない。相手の力を利用する、振り飛車らしい指し方だ。後手は△6六歩と打ちたいのだが、駒台に歩がない。ならばと△9五歩は、▲8五桂△9六歩▲4六角がぴったり間に合う。角を成り込んだ羽生王位だが、これからの攻め方には工夫がいるようだ。控室の見解は先手よし。

「突いたときは見通しの立たなかった▲4五歩が、こうなると立派な位ですよね」(深浦九段)

【Twitter解説】
増田裕司>▲8五桂にどうするのでしょうか。▲4六角が絶品ですから。少し先手が指せそうですが、羽生王位の戦い方に注目です。


大盤解説会では深浦九段が登場。「やっと駒がぶつかりましたね」と腕時計を見て言う。二人が解説を続けていると、会場の照明が落ちてしまうハプニングが。すると深浦九段、「サプライズですか? 誕生日の方がいるんでしょうか」と即座の切り返し。これには会場中がどっと沸いた。

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1_32藤井九段が早くに4筋の位を取ったが、羽生王位も△2五歩(図)と伸ばして2筋の位を取った。先手に対して銀冠への進展性を奪う意味があり、主張の強い手といえる。4筋と2筋の位は、どちらも玉頭に厚みを作るうえで大きな要素。中終盤の玉頭戦に要注目だ。

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大盤解説会では千日手指し直しを受けて、予定されていた「次の一手クイズ」を急遽「指し直し局戦型予想クイズ」に変更。藤井システムに50票以上が集まったそうだ。来場者が続々と増えているため、席を増やして対応している。壇上では杉本七段と井道女流初段が解説中だ。

井道 藤井先生は食べ物の好き嫌いがあるそうなんです。梅干しと納豆ですね。これは知っている方もいるかと思うんですけども、私が驚いたのは、それを人が食べているのを見るのも嫌い、ということなんです。杉本先生、知ってました?
杉本 知りませんでした。でもそれなら、ぼくが羽生さんだったらおやつに梅干しを頼むなあ。午前は梅干しで、午後は納豆で……。羽生さんはそういうことはやらないと思いますけど。大山先生なら絶対やると思いますよ。勝負の鬼ですからね。

解説会の様子は、USTREAMでも配信されている。現地に来られない方はこちらで楽しんでいただきたい。

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