2011年9月13日 (火)

記者会見

感想戦終了後、(故)大山康晴十五世名人の持つ通算タイトル獲得80期(歴代1位)に並んだ羽生善治三冠(王位・王座・棋聖)の記者会見が行われました。

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――大山十五世名人の記録に並んだ感想をお願いします

「当時と今とでは状況や環境がまったく違いますので単純に比較は出来ないとは思うのですが、数字の上では偉大な大先輩に並ぶことが出来たのは、非常に光栄というか名誉なことだと思っています」

――王座戦の防衛戦も行っていて、タイトル獲得81期の新記録が懸かっています。意気込みを聞かせて下さい

「この王位戦もそうですし、王座戦もそうなのですが、若い20代の人たちが台頭していて、一局勝つというのが最近は大変だなとしみじみと実感することが多いです。もちろん記録が懸かっているというのはあるのですが、それ以上に私自身も新たにいろいろと研究・勉強しながらいまの将棋を理解して、それにプラスして自分の個性を出せたらいいなと思っています」

――永世七冠や通算勝ち星などいろいろな記録があると思うのですが、どの記録を意識しているのでしょうか

「なかなか簡単にできる記録はないので、もちろんそういったものが達成できれば達成できたで嬉しいです。ただ、実際の状況は一手ずつ積み重ねていくとか、一局ずつ積み重ねていくとか地道なものだと思っているので、特別に記録を目標とするのではなく、一生懸命やった結果としてたどりつければいいなと思っています」

――羽生さんが現在40歳で大山十五世名人は最後にタイトルを獲得したのが59歳。羽生さんが59歳までやればタイトル100期ぐらいいきそうだと思うのですが、羽生さん自身はどのように考えていますか

「50代や60代のことは先すぎて想像がつかないというところがあります。とりあえずこの1年とか2年をしっかりやれたらいいなと思っています。年齢的なことに対して、どのように向き合っていくのかというのは目の前にある課題だと思っています。それができればタイトル戦にも出場できるのかなと」

――(その課題とは)具体的にはどのようなものですか。若い頃とは違いますか

「戦術的なところで昔の将棋と今の将棋は変わってしまっているので、その辺のところを意識的にマスターしていくというか、知っていくということをしないと置いていかれてしまうという感覚があります。たとえば今期の王位戦では、広瀬さんの振り飛車穴熊という非常に強力な作戦がありました。棋譜を見ても分からないところがあるので、実際に真剣勝負で対局していく中でしっかりと感覚というか戦術を自分なりにマスターしていくことになると思います」

――逆に言うと若い頃は力まかせでいけたということですか

「ルール自体は変わっていないのですが質が変わったというところがあるので、力まかせというわけではないのですが、前と同じやりかたでは今は厳しいのかなと実感として思っていますし、今回のシリーズも特にそういったことは強く思いました」

675――同世代の棋士の中で突出していますが、80期も積み重ねられた要因は心・技・体の何だと思っていますか

「何がといわれるとちょっと分からないですが、最近は割合、どんな状況になってもあまり変わらないで自然体で対局できる感じになってきているのでそれがいいのかなあと」

――(王位戦では)フルセットで2回続けて負けていたことについて、意識はあったのでしょうか

「場所がこの陣屋だったということもあって、よく覚えているということもありますし、最後の1局というのは非常に緊迫感のある中での対局ですから、いろんな思いが交錯します。今回に限っていえば、6局目が内容的にも負けの将棋でしたので、前の対局で終わっていても不思議ではなかったという、気楽とまではいえませんがそれに近い感覚で臨めました。

――長い間タイトル戦に出ていますが、一番印象に残っているタイトル戦は

「やっぱり一番最初にタイトル戦に出た時が、印象としては一番残っていますね。もう20年以上前になるのですが、それまで(タイトル戦の)会場にも足を運んだことがなかった中での対局でしたので。それはやはり一番印象に残っています。他の対局も、その場所に行ったり、写真を見たら思い出すということはありますね」

――ファンの方に今後このような羽生善治を見て欲しい、というメッセージをいただけますか

「急に、というわけにはいかないと思いますが、年代年代で少しずつ自分自身のスタイルというか、形というか、そういうものを変えていけたらいいな、ということは長い目標として持っています」

――王位戦についての印象を聞かせてください

「王位戦は、北は北海道から南は九州まで、全国各地を転戦していきますし、対局以外のところでも、いろんな場所に行けるので印象に残っています。今回も初めて行く場所がありましたので、王位戦なんだなあとしみじみ感じましたね(笑)」

――今後の目標を聞かせてください

「棋士の生活と言うのは非常に長いので、長期的なスパンの中でどれだけ力を発揮できるか、どんなものが残せるか、そういうものだと思っています。あまり過去のことにこだわるのではなく、いまあるもので、できることをやっていく。それが自分自身のスタイルみたいなものにつながればいいなと思います」

(八雲)